「震災特需」と聞けば、仕事が増えて羨ましい・・・と思われるかもしれない。だが、実際はそう単純なものでもない。
例えば、防塵マスク、防毒マスクなどの防護マスクを手掛ける興研(東京都千代田区)という会社がある。赤城の山も今宵限り・・・で知られる国定忠治の墓のほど近くに「群馬テクノヤード」というマスク工場を構えている。
国定忠治の墓には、「賭けに強くなる」ということで、ギャンブル愛好家がこぞって墓参りするということだが、マスク作りはイチかバチかの「賭け」というわけにはいかない。髪の毛1本の隙間があることも許されない緻密なものづくりの世界だ。一つひとつ丁寧に作業しなければならない。
自衛隊では、今回の震災で、こうしたマスクや衣類、食品などの需品関係の装備品の需要が膨らんだ。関連メーカーは、残業はもちろん24時間稼働で休日出勤しているケースも少なくない。中には、自分たちが被災しながらも、必死に頑張っている工員たちもいると聞く。
受注が急増して材料、作業場所が足りない
防護マスクは特需に沸いているが、興研で今困っていることがある。まず、マスクや浄化装置等のフィルターの主要材料である活性炭の入手が困難になっていることだ。国内では争奪戦になっている状態で、世界中を探してなんとか手に入れているという。
また、受注が通常の倍に膨らみ、作業場所が足りなくなった。近所の廃業したパチンコ店を借り、そこを臨時の作業場にしているという。納期に遅れるわけにはいかないため、あらゆる手を打って必死である。
受注の増加は嬉しいはずだが、悩みはつきまとう。今回、急場を凌ぐための臨時雇用が発生したが、今後も働き続けてもらうわけにはいかない。賃金や諸々のコストは、時間外労働分の手当てなどもあり、増える一方とのことだ。
それらの資金を確保する必要がある一方で、価格に上乗せするわけにもいかない。先行きの不安が拭えないようでもあった。