総選挙圧勝を受けて誕生する民主党政権に対し、霞が関は動揺を隠せない。こうした中で金融庁は予算規模が小さく、提出法案のほとんどを自民・民主両党の同意で組み立ててきたため、「政策の企画・立案に関して、すぐには政権交代の影響が出ない」(幹部)と見られている。
しかし、金融監督の現場では事情が大きく異なる。悩みの種はズバリ、行き詰まった状況にある新銀行東京と日本振興銀行。ともに要警戒の対象であり、金融庁は民主党政権の意向に神経をとがらせている。
新銀行については、総選挙の前哨戦となった2009年7月の都議選で民主党が同行の早期売却をマニフェスト(政権公約)に掲げ、第1党に躍進した。地方議会と国会は必ずしも連動するわけではないが、政権与党となる民主党が都議会での方針を国政でも踏襲する可能性が大きい。
一方の振興銀は現在、金融庁が検査中。商工ローン大手SFCGなどから譲り受け、不明瞭とされる債権の資産価値を査定している。検査結果は原則非公開だから、今後の行政処分の有無で当局は判断を示すことになる。処分に関する実務作業は金融庁が行うものの、同行をどうするかの「生殺与奪の権」は新政権が握る。
スコアリングモデルで転んだ新銀行、激増した不良債権
振興銀は卸金融が中心となって2004年設立され、新銀行は石原慎太郎・東京都知事が主導する形で2005年開業した。
大手銀行の「貸し渋り」が社会問題化する中、両行は中小企業向け融資を軸に新たな銀行モデルを目指していた。すなわち、「大口向け低金利と小口向け高金利の2コブだけ」(機関投資家)という日本の融資環境を刷新し、中間領域を開拓しようとしたわけだ。だが、両行の挑戦は事実上失敗している。まずはその経緯を確認しておこう。
先に経営問題が表面化したのは新銀行だった。
都の意向を受け、小さな陣容で効率的な運営を目指した新銀行東京は、取引先の財務情報を基に融資可否をシステムで審査する「スコアリングモデル」に傾斜していく。
しかしながら、「中小企業は決算処理の信憑性が低く、結局は経営陣の顔を見ないと融資できない」(地方銀行幹部)のが実情だ。確度の低い情報をベースに融資判断を続け、新銀行は「都に見栄えの良い情報を上げ、行内に不良債権を溜め続けてきた」(元幹部)。
その結果、新銀行の累積損失は2007年度までに1260億円に膨らみ、都の当初出資金1000億円を食い潰す。2008年4月には、都は400億円を追加出資する羽目に陥った。その直後、金融庁は新銀行に対して初の検査に着手。2008年12月、「債務者の実態把握が不十分」として業務改善命令を発動している。
振興銀は事実上ノンバンク、「高リスク高リターン」に傾斜
振興銀は設立から早い段階でスコアリングモデル依存を止め、2007年頃には収益の上がらない無担保・無保証融資にも見切りをつけた。逆に注力したのが、商工ローンや消費者金融の貸付債権の買い取りだ。
2006年12月の改正貸金業法成立に伴い、「グレーゾーン金利」が撤廃され、ローン業者の経営環境は急激に厳しくなった。振興銀はこうした業者に積極融資するとともに、業者が保有する上場株式を担保権行使で取得。上場企業の主要株主になり、グループ化した上で融資先としている。