パリ14区。住宅街の一角に、一風変わったパティスリーがある。その名は「Chez・Bogato(シェ・ボガト)」。

子供のためのお菓子専門店

お店の外観ウインドーディスプレーの一部

 「素晴らしいお菓子処」といったニュアンスを持たせたネーミング。この店が何ゆえ一風変わっているのかといえば、そのターゲットが、大人の町パリにあって、「子供のためのパティスリー」をコンセプトにしているという点だ。

 まずウインドーは一見すると、しゃれたおもちゃ屋さんかというようなディスプレー。そして店に入っても、並んでいるもののほとんどが子供向けのアイテム。そんな中に、まるでおもちゃの延長のようなケーキやクッキーなどがあるという具合だ。

 「ボンジュール」。迎えてくれたのは、この店のオーナー、アナイス・オルメーさん。店からもよく見える奥の作業場から、制作の手を休めて出てきてくれた。「子供のためのパティスリー」というのは、彼女が長年温めていた夢だった。

 それがこうして形になったのは今年の5月。つまりここは、まだできたてほやほやのお店ということになる。そもそも、彼女は最初からパティシエだったわけではなく、元々の職業はグラフィックデザイナーで、パリの大手広告代理店のアーティスティックディレクターを務めていたという経歴の持ち主だった。

 それが、2人目の子供を授かった頃、昔から心の中に漠然とあった夢を具体化する方向へと動き出したのだという。

おしゃれなパリっ子は何と「キティ」ちゃんのお菓子を注文

通りがかりにウインドーにひかれて来店した親子

 そんな風にして話を聞いている間、何度も電話が入る。そして、こんどは小脇に書類と携帯電話を抱えた男性と、ブロンドヘアの少女が店に入ってきた。少女は、「ワーッ」と、小さく歓声を上げながら、様々なアイテムに興味津津の様子だ。

 「見てみて! パパ」。そうして、いかにも気前のよさそうなパパは、娘のリクエストに従順に応えては、小さな袋がいっぱいになるくらいの買い物をした。

 「近所に住んでいるのですか?」と男性に質問を向ければ、

 「いいえ。そうじゃないんですけれど、たまたま通りかかって、ウインドーに惹かれて入ってみようと思ったんですよ」という答え。

 ツーリスティックなエリアでもなく繁華街からも離れたところで、けっして人通りが多い界隈とは言えないのだが、こんな風にして、ふらりと立ち寄る人は少なくないらしい。

キティちゃんの顔の特製ケーキ

 そして今度は、いかにも今どきのパリらしい洗練されたおしゃれな女性が来店した。この方は、注文してあったケーキを取りに来たらしい。アナイスさんが、奥の作業場の冷蔵庫から取り出して、箱のふたを開いて彼女に見せたのは、なんとキティちゃんの顔をかたどった大きなケーキだった。

 「そうそう。思っていた通りよ」と、女性はとても満足そう。