米連邦公開市場委員会(FOMC)議事録(8月11、12日開催分)が、9月2日に公表された。3000億ドルを上限枠に行っている長期国債購入について、買い入れペースを落とした上で、10月末まで期限を延長することを決定した会合である。

 そこには市場へのショックを和らげる狙いがあったことが、議事録から確認された。筆者はさらに、事態の推移次第では購入継続の選択肢も保持しておくという「時間稼ぎ」の狙いもあったのではないかと推測しているわけだが、議事録にはそれを裏付けるような記述は見当たらなかった。

 ただし、米国経済の回復力が脆弱であり、特に経済のメインエンジンである個人消費については回復を阻害する要因が数多いことをFOMCは心配しており、悪いショックに対して経済が脆弱な状態にあることを警戒している点は、はっきりと示されていた。

 一方、日銀の白川方明総裁は8月31日に大阪経済4団体共催懇談会で行った挨拶(講演)の中で、今般の世界景気大幅悪化について、次のような「二分法」による整理を試みていた。

「こうしたバランスシート調整が、長期間に亘り、経済に対して『慢性症状』的な影響を及ぼすものだとすれば、景気落ち込みの第2の要因である流動性危機は、経済活動を一気に収縮させる強烈な『急性症状』をもたらすものです」

 米国で大きなバブルが崩壊したことに起因するバランスシート調整の長期化を「慢性症状」とし、リーマン・ショックがきっかけになった流動性危機と世界景気の急速かつ同時的悪化を「急性症状」と整理した白川総裁は、「急性症状」については各国政府・中央銀行の果敢な対応や在庫調整という自律的な動きによって消えてきたとしつつも、「慢性症状」が解消するまでには長い時間がおそらく必要になるだろうという見通しを述べた。筆者も全く同感である。

 さらに、講演後の質疑応答では、白川総裁から次のような発言があったと報じられている(8月31日 時事)。「パニックは終息の方向に向かっているが、このことはバランスシート調整がなくなることではない。どうしても足元の状況が改善すると、調整を過小評価する状況が生まれやすい」

「問題は(政策による)プラス効果が出尽くした後、どうなるかだ。日銀として、民間の最終需要回復について、まだ自信が持てない状況。先週、米国で中央銀行トップらが集まる会合があったが、みんなの感じを聞くと日銀と同じ。足元は確かに回復に向かっているが、その後については自信が持てないとのことだった」

 白川総裁が言及した米国での会合とは、言うまでもなく、ワイオミング州ジャクソンホールで開かれた、毎年恒例のカンザスシティー連銀主催のシンポジウムのことである。この会合で白川総裁が聴取した各国中央銀行トップの見方は、政策効果が出尽くした後の経済の先行きについて「自信が持てない」という慎重論だった。バーナンキ連邦準備理事会(FRB)議長もそこに含まれていたと考えることに無理はなかろう。

 また、8月FOMCが開催された約2週間後、8月28日に発表された米7月のコアPCE(個人消費支出)デフレーターは、前月比+0.1%というきわめて落ち着いた上昇にとどまった。前年同月比では+1.4%までプラス幅を縮小したが、これは2003年9月以来の低い上昇率である。単純に延長して試算すると、コアPCEデフレーターがこの先、前年同月比+1%のラインを割り込む流れにあることが分かる。