8月30日に投開票が行われた衆議院議員選挙は、マスコミ各社による事前の情勢分析が示していた線に沿い、308議席を獲得した民主党の歴史的大勝になった。9月14日の週に特別国会が召集され、首相指名選挙を経て、鳩山由紀夫新内閣が発足する見通しである。
金融市場には昔から、「噂で買って、事実で売る(Buy on the rumor, sell on the fact.)」という格言がある。民主党圧勝という選挙結果を、国内株式市場は買い材料としてはすでに十分織り込んでいたと考えられる。このため、材料出尽くし感から、選挙前につくられたポジションを解消する動きが目先出てきやすい。また、先週末28日にニューヨークダウ工業株30種平均が9日ぶりに反落したことに加え、31日早朝に日本の選挙結果を材料に円高ドル安に為替相場が動いたことが重石になる。
ポジション調整を含む、そうした市場の値動きを経た上で、連立政権を組むとみられる民主党・社民党・国民新党による政策協定の内容、財務相など主要経済閣僚の顔ぶれ、2009年度補正予算組み替えの具体的な成果などを、市場は見極めていくことになる。新政権が霞が関の官僚をうまく使いこなすことができるかどうかも、隠れた焦点の1つになる。
株式市場に多いとされる先行き楽観論者からは、民主党主導の政権が誕生することによって、(1)子ども手当などの歳出増が景気回復を促す、(2)衆参の「ねじれ」が解消することによって国政が円滑に進められるようになる、(3)様々な旧弊・悪弊が打破されて改革が進むことへの期待感から外国人の日本株買いが強まる可能性がある、といった声が出ているようである。
しかし、筆者は、日本の政策決定システムがこれまでとは大きく変わったものになる可能性は高いにせよ、「政治状況の変化がどこまで日本の経済状況の抜本的な変化につながるか」という問題については、少なくとも今後1~2年といったスパンでは、ユーフォリアに浸ることなく、冷静な見方をしていくべきだと考えている。
改革の理想が現実のカベに直面している典型的な事例が、海の向こうにある。
米国で「反ブッシュ」気運が盛り上がり、オバマ民主党政権が誕生した際には、住宅とクレジットのバブル崩壊で構造不況に陥った経済の立て直しに向けて、何かやってくれるのではないか、という期待感もあった。だが実際には、財政赤字を膨らませることの限界にオバマ政権は早い段階で直面し、大型景気刺激策の発動は1回だけ。財政支出のペースを調整して、1990年代の日本の事例のように「断層」が生じないように配慮しつつ、景気底割れだけは何とか防ぎ、その間に構造調整プロセスが終了するのをじっと待つという、「持久戦」戦略を取らざるを得なくなっている。また、医療保険改革の問題では、議会共和党の反対姿勢が強く、世論もそちらになびいている(大統領の支持率が低下している)という、先行きが危ぶまれる事態に陥っている。
選挙結果が債券相場に及ぼす影響についての筆者の見方は、以前のリポートに書いたものから、まったく変わりがない。すなわち、「選挙結果やその後の政権の枠組み・具体的な経済政策の内容よりも、ファンダメンタルズや金融政策の先行き見通しの方が、債券相場(長期金利)のトレンド形成において、圧倒的に影響力が大きい」というものである。