ノルウェーと言えば「豊かな北」の中でもとりわけ安定した戦略を持つ国として知られます。一方では北海油田を持ちながら、他方ではエコの旗振り役としての立場を堅持する。
何より「ノーベル平和賞」という、世界の平和の評価役のような政治カードを手にしつつ、欧州連合加盟国に隣接する中で独自の立場を堅持する国、というのが、私たちのノルウェーに持っていた印象でした。
大規模な爆弾テロと無差別殺人の同時多発テロ。「ブレイビク容疑者」は、彼自身の単独犯行のような発言を繰り返していますが、果たして本当にそうなのか?
今回の事件にどのような背後関係があるのか、あるいはないのか、定かなことは後続の報道を待ちたいと思いますが、もし現状に不満を持った若者が起こした「テロ」であるとするなら、様々な先行事例が思い浮かびます。
白昼堂々の無差別殺人と考えれば、日本国内を震撼させた「秋葉原無差別殺人事件」が思い浮かびますが、政策に抗議して首相を狙った右翼青年と考えれば2.26事件が想起されます。
しかし青年将校たちは決して国民を傷つけようとはしなかったけれど、今回の犯行は罪もない青少年に多数の犠牲者が出ています。
ところが、右派を名乗る容疑者は、首相は狙っても決してノルウェー国王に危害を加えようとは考えず、愛国者をもって自認する、としている・・・。
「2.26」と「9.11」の中間にあるような、かつてないタイプの「テロ」、早急に再発防止策を検討しなければならないでしょう。
「死刑廃止国」での「無差別大量殺人」
ここで、どうしても考えなければならないのは犯罪者に対する「刑罰」です。ノルウェーを筆頭にスカンジナビア各国は国連での議論をリードする人権大国で、死刑は廃止されています。
今回のブレイビク容疑者もまた、ノルウェーの国内法で裁く限り死刑に処せられることはないはずです。
私事ですが、私は6月、EU本部とドイツ連邦共和国の招聘で「死刑をめぐる国際対話」というものに参加してきました。その時の記憶が鮮明なので、とりわけこの点が気になって仕方ありません。
欧州での死刑廃止、つまり「国家が国の名の下に国内外の人間の生命を<正当に>奪うことの否定は、1933~45年の間にナチス・ドイツが引き起こした、国家規模での犯罪に対する大きな揺り戻しでした。
