日銀は31日、「経済・物価情勢の展望」(いわゆる展望レポート)基本的見解を公表した。

 示された日本の景気シナリオは、2009年度半ば以降に海外経済全体の成長率の回復が明確化し、日本の成長率が徐々に高まっていく時期は2009年度半ば以降で、2010年度の成長率が潜在成長率並みになる、というもの。事前に予想された内容と言える。実質GDPの政策委員大勢見通し(中央値)は、2008年度が前年度比+0.1%、2009年度が同+0.6%となった後、2010年度には同+1.7%という、潜在成長率並みの数字が示された。

 

 ただし、今回の展望レポートには冒頭、前回にはなかった以下のような記述がある。

 「2008年度から2010年度にかけてのわが国の経済・物価を取り巻く環境を展望すると、国際的な金融情勢の展開やその実体経済への影響、国際商品市況の動向など、著しく不確実性が高まっている。こうした状況下では、先行きの経済・物価動向を見通すに当たって、中心的な見通しの蓋然性が、これまでに比べて高くないことを踏まえ、リスク要因を注意深く点検することが従来以上に重要である」

 2009年度半ば以降の景気回復シナリオを掲げつつも、シナリオの実現可能性に十分な自信を持てないことを、日銀は「不確実性の強さ」を強調することを通じて、率直に表明したものと受け止められる。リスク・バランス・チャートを見ても、実質GDPについては、分布はやや下方に偏っている。

 日銀は特に、米国経済の今後を心配しているようである。海外経済について説明した部分には、「特に米国経済の動向が重要」と明記され、「住宅市場における調整の進展」「金融システム面での対策の効果発現」への期待が表明された。

 景気の「上振れ・下振れ要因」は、今回は5項目。(1)「米欧の金融危機の帰趨とその影響」がまず指摘され、さらに(2)「新興国・資源国の動向」、(3)「エネルギー・原材料価格の動向」、(4)「企業の成長期待の動向」、(5)「金融環境の動向」が並ぶ。(5)に基づく下振れリスク(国際金融資本市場の緊張増大と、金融機関の貸出態度厳格化)は、日銀が今回利下げに動く上で、1つの根拠になったのだろう。

 一方、消費者物価指数(CPI)コアの見通しについては、ハト派的な見解に傾斜した内容になっており、筆者としても違和感はない。むしろ、CPIコアの政策委員大勢見通し(中央値)が、2009年度に前年度比0.0%、2010年度に同+0.3%という非常に低い数字が、実に素直に示されたことに驚かされた。

日銀「展望レポート」(基本的見解)の前回・今回の内容比較
~ 景気の先行き見通しおよび金融政策運営部分

  前回(08年4月30日) 今回(08年10月31日)
景気の先行き見通し 先行き2008年度から2009年度を展望すると、概ね潜在成長率並みの緩やかな成長を続ける可能性が高い。(中略)2008年度の成長率は前回見通し対比で下振れ、1%台半ば程度になるとみられる。また、2009年度の成長率は1%台後半程度になると考えられる。ただし、海外経済や国際金融資本市場を巡る不確実性、エネルギー・原材料価格高の影響など景気の下振れリスクがある。 2008年度から2010 年度にかけてのわが国の経済・物価を取り巻く環境を展望すると、国際的な金融情勢の展開やその実体経済への影響、国際商品市況の動向など、著しく不確実性が高まっている。こうした状況下では、先行きの経済・物価動向を見通すに当たって、中心的な見通しの蓋然性が、これまでに比べて高くないことを踏まえ、リスク要因を注意深く点検することが従来以上に重要である。
先行き2008年度から2010年度を展望すると、2009年度半ば頃までは、停滞色が強い状況が続くと見込まれる。(中略)2008年度、2009年度の成長率は、年度平均でみると、それぞれ0%程度、0%台半ばで推移した後、2010年度の成長率は潜在成長率並みになると考えられる。
景気の上振れ
・下振れ要因
(1)海外経済や国際金融資本市場の動向

(2)エネルギー・原材料価格の動向

(3)企業の成長期待の動向

(4)緩和的な金融環境が続くもとで、金融・経済活動の振幅が大きくなる可能性があること
(1)米欧の金融危機の帰趨とその影響

(2)新興国・資源国の動向

(3)エネルギー・原材料価格の動向

(4)企業の成長期待の動向

(5)金融環境の動向
金融政策運営 現在のように不確実性が極めて高い状況のもとで、先行きの金融政策について予め特定の方向性を持つことは適当ではない。この先、下振れリスクが薄れ、物価安定のもとでの持続的な成長を続ける見通しの蓋然性が高まるのか、あるいは、下振れリスクが顕現化する蓋然性が高まるのか、よく見極めていく必要がある。日本銀行としては、経済・物価の見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検しながら、それらに応じて機動的に金融政策運営を行っていく方針である。 日本銀行としては、経済・物価見通しとその蓋然性、上下両方向のリスク要因を丹念に点検しながら、適切に金融政策を運営していく方針である。特に、当面は、米欧金融システムや国際金融資本市場の動向とその影響を中心に、経済の下振れリスクに注意を払う必要がある。

(出所:日銀、みずほ証券)