8月第3週の最終営業日である21日、ニューヨーウダウ工業株30種平均は前日比 +155.91ドルの大幅高。終値は9505.96ドルとなり、昨年11月4日以来の9500ドル回復となった。材料になったのは、バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長が講演で世界経済の最悪期脱出に言及したこと、および、米不動産業者協会(NAR)から発表された米7月の中古住宅販売が年率524万戸(前月比+7.2%)となり、4カ月連続で増加したこと。
後者については、戦後最悪の米景気後退のきっかけとなった住宅市場の悪化が止まり、水準の極端な低さはともかく、方向としては上向きに転じていることが確認されたと、市場は受け止めた。
しかし、同じ8月第3週には、米景気の先行き不安を強める動きがあった。好調が伝えられる低燃費の新車への買い替えに最大4500ドルを支給する買い換え補助制度が、スタートから1カ月しか経過していない8月24日をもって打ち切りになると、ラフード米運輸長官が20日に発表したことである。
理由は、財源の枯渇。「カンフル剤」が切れることによる自動車販売台数の断層的悪化が起こる可能性は十分ある。同日の東京株式市場では、自動車関連株が軒並み下落した。当初10億ドルの予算枠で7月24日にスタートしたこの制度は出足がきわめて好調で、7月の自動車販売台数が年率1124万台と、昨年12月以来の1000万台超えとなる上で、多大な貢献をした。
8月上旬に20億ドル上積みされて資金枠は計30億ドルとなったが、それでも長持ちはしなかった。ラフード長官によると、8月20日時点で支給した金額は19億ドルに達しており、45万7000台を超える自動車販売台数の上積みにつながったという。
米政府にはこの制度をさらに拡大する計画はない、と報じられている。それもそのはず。20億ドル上積みを議会に認めてもらう過程で、上院共和党の反対意見を説得して賛成票を確保するのに苦労した経緯があるからである。
また、オバマ政権がこの制度の再開を決断することが将来、仮にあるとしても、需要喚起効果に時限性があるという点には変わりがない。制度を半永久的に続けるとなれば、需要喚起効果が薄れる上に、財政赤字が膨らむという問題点が出てくる。
1カ月程度を想定した限定金額での制度再開ということであれば、ペントアップディマンド(抑制されてきた需要)掘り起こしに加え需要の先食いで一時的に販売台数が上振れた後でその反動が到来する、というパターンに変化はない。
さらに、自動車買い換え策が今回これだけの好調さを見せたことについて、その理由をよく考えてみる必要がある。米国の家計はなお購買意欲を十分持っていることが示された、という楽観的な受け止め方もあるが、筆者としては、米国の家計の懐具合に余裕がないからこそ「国家支援のバーゲンセール」的な動きに必死に飛びついているのではないか、という見方を取りたい。
21日の米国市場で株買い・債券売りの材料になった米7月の中古住宅販売など、各種の米住宅関連指標の足元の底堅さについても、政策効果が後ろ盾になっていることに注意を払う必要がある。
1つは、11月末までの時限措置として行われている、住宅の初回購入者に対する最大8000ドルの減税措置。もう1つは、年末までの時限措置として行われている、FRBによる不動産担保証券(MBS)やGSE債の購入策である。
これらの措置がそのまま期限切れを迎えるのか、それとも延長されるのかは現時点では判然としないものの、仮にこのまま打ち切られるということになると、米国の住宅関連指標が悪化に転じる可能性は高い。