「まるでリーマン・ショックなんてなかったかのよう」――銀行セクターのアナリストは弾んだ声を上げている。
米銀上位3行は7月中旬、揃って4~6月期の黒字決算を発表した。それから1カ月間(8月14日時点)の株価上昇率はシティグループ38%、バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)35%、JPモルガン・チェース22%と、文字通りの急騰を演じている。

 公的資金250億ドル(約2兆3800億円)を完済したJPモルガンよりも、政府支援から抜け出せないシティやバンカメに買いが集まっているのは一見奇妙だが、米政府・連邦準備制度理事会(FRB)は昨秋来、「金融システムへの影響度が大きい金融機関は潰さない」ことを公約している。金融不安が後退する中、株価水準が低いシティやバンカメが投資家の目に魅力的に映るのは当然だ。

「潰れない」から上昇する金融株

 シティは7月30日、部分国有化された。政府や一部の大口株主と結んだ今年2月の合意に基づき、既存優先株の一部を普通株に転換した結果、米政府がシティの発行済み普通株の約34%を取得した。

米シティグループ、1-2月は営業黒字 CEOの内部メモで明らかに

公的資返済のため、本業以外の資産処分を加速中〔AFPBB News

 かつて、銀行、証券、保険を傘下に従えたシティは、総合金融機関というビジネスモデルを打ち出し、一時は日本のメガバンクにとっても理想型とされた。しかし、今や、その権勢は風前の灯火だ。不採算部門だけでなく、日本の金融再編の火種にもなった日興シティグループの売却、さらには虎の子の証券子会社スミス・バーニーのスピンオフなど、銀行本業以外の資産処分を加速。公的支援のカネを返すのが最重要の経営課題となっている。

 しかし、「公営企業」となったシティに切迫感はない。折しも今年3月に約12年ぶりの安値を記録したダウ工業株30種平均は4カ月後には4割も回復。金融市場の改善は、経営の足かせだった保有金融商品の評価損圧縮につながり、「ひとまず止血はできた」(銀行アナリスト)からだ。

米財務省、バンク・オブ・アメリカに200億ドルの追加支援

全米6100の支店網の10%削減へ〔AFPBB News

 一方のバンカメは450億ドル(約4兆2800億円)の公的資金を抱えてもがいている。米国最大の預金量を誇るリテールバンクの雄は、成長の原動力だった全米約6100カ所の支店網を10%削減する方針を打ち出した。一方で、証券大手メリルリンチの経営統合をきっかけに市場取引部門の拡充を急いでいるが、野村証券に米国株式のトレーディングチームを引き抜かれるなど前途は多難だ。

 ところが、8月に入り、大手ヘッジファンドが約26億8000万ドル(約2500億円)のバンカメ株を買い入れたことが明らかになった。ファンドを率いるのは、低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローン問題の発生を予測し、債務担保証券(CDO)の暴落で大儲けしたと噂される大物投資家ジョン・ポールソン氏だ。

 同氏は、米南部の地銀大手リージョンズ・フィナンシャル株も同時に大量購入した。リージョンズは、FRBなどが大手金融機関に対して実施したストレステスト(特別検査)の対象。資本不足を指摘された10社の中では最も増資手続きが遅れているが、「潰れない金融機関」の割安銘柄として物色されたのは間違いない。