私自身は「核分裂熱発電」に依存することには反対だけれど、しかし「脱原発」は、明日にも何とかできるような簡単な話ではない。そういう現況分析を前回のコラムにまとめた後で、突如「ストレステスト」という話が飛び出した。
常用(想定)範囲を超える負荷をかけて何が起こるか/起こらずに正常に機能するかを確かめる試験、という元の意味は、例えば電子機器やその集合体が形づくるシステムの評価試験などの分野で耳にしていた。しかし「核分裂熱発電システム」の高負荷試験とは? そんな試験法があるのかと、インターネット検索をかけてみた。
すると東日本大震災と福島第一原発事故を受けて、EUがその域内にある原発の「健全度」を確かめるために、原発システムのための「ストレステスト」を準備することを「考慮している」というニュースが3月15日にまず現れ、その2~3日後には「ブラッセルで行われたEUの原発専門家たちの緊急会議で検討された」と続く。
ものごとが少し具体的になるのは5月半ばで、「6月からEU全域にある143基の原発に対して『ストレステスト』を準備してゆく」という話が出てくる。その内容はEC(European Commission:欧州委員会)の原子力エネルギー/安全性のウェブサイトに掲載されている。そこからEUが計画しているストレステストの基本的内容もPDFファイルがダウンロードできる。
その内容は、世界的にも設備の設計、建設、運営の中で想定されていなかったような事態、例えば地震、洪水(欧州ではこの2種の災害がまず想定される)といった過酷な状況が、それぞれの原発の立地においてどこまで考えられるか。それらに対して、施設の「健全度」は維持できるのか、「ステーションブラックアウト」(全電源喪失)と冷却機能喪失、その両方が起こった場合、どう対応するのか、それぞれの機能要素についてマージン(余裕度)はどのくらいあるか・・・といった内容をリポートとしてまとめ、評価しよう、というものになっている。
さらにスケジュールの概略も提案されている。まず6月1日付で作業開始、安全の許認可に関わる再評価と、各国の規制機関による見直しと、それぞれのためにリポートがまとめられる。前者のリポートについては中間報告が8月15日、最終報告が10月末日、後者のリポートは同じく9月15日と12月末日。専門家がその内容を精査して確認が終わるタイミングは、2012年4月末に設定する、となっている。とはいえ、具体的にどんな項目について、どんな内容の「高負荷想定リポート」をまとめるかは、これから決めてゆく、ということのようである。
「ストレステスト」の実質的意味を消した政治的妥協
菅直人首相が突然この「ストレステスト」(現実に負荷を加えた実機試験を行うのではないはず)を持ち出したのは、おそらくは誰かから「EUではこんな動きがあります」という示唆があってのことだろう。
しかし、具体的にどんな内容を精査して、どういうリポートを作り、誰がどう評価するかという実務面の内容を詰め、準備するだけでも何カ月かが必要だ。3月から検討を始めていたEUでも、提案から1年弱を費やしてプロセスを進めてゆこうとしている。それも「緊急作業」としてのペースで進めて、なおかつそのくらいはかかるだろう、と見ているのである。