「北大西洋条約機構(NATO)*1への加盟についてコメントするのは、現時点では難しい。しかし『ネバー・セイ・ネバー』という言葉もありますからね」
2008年11月、グルジアとの戦争を巡ってNATOとの関係がぎくしゃくしていた最中に、メドベージェフ大統領は報道陣から「ロシアはNATOに加盟したいと考えているのか」と聞かれた。冒頭の発言は、その問いに対する答えである。
「ネバー・セイ・ネバー」とは「絶対にないということはない」という意味。要するに、場合によっては加盟もあり得るという含みの発言だった。
ロシアのNATO非加盟が新しい対立の種に
先日、米国の議会でフィリップ・ゴードン国務次官補が「オバマ政権はロシアのNATO加盟の可能性を否定しない」と発言した。「NATOはヨーロッパのすべての民主国家に開かれるべきである」という原則に立ち、その可能性はあり得るという趣旨の証言をしていた。ただし、加盟の基準に合致し、同盟諸国の安全に貢献することができ、その上、加盟国が合意することが条件である、ということも明言した。
その条件、特に最後の条件を考えると、NATOがロシアの加盟を現実的に認めるとは思えない。だとすれば、ゴードン氏の発言の背景には何があったのだろうか。
オバマ政権はロシアと友好的な関係を築こうとしており、その表れと見ることはできる。だが実際は、最近、アフガニスタンに駐留している米軍への物資調達のために、自国の領空を使うことを許したロシア政府へのリップサービスという側面が大きいようにも思われる。
とはいえ、ロシアのNATO加盟は、国際秩序の安定のために欠かせないテーマの1つである。
旧ソ連共和国のバルト3国を含め、冷戦時代にワルシャワ条約の旧同盟国だった東欧の国々がNATOに加盟した。その一方でロシアだけが蚊帳の外に置かれた。それは、冷戦後の世界にとって新しい対立の種であり、世界を不安定に陥れる大きな要因の1つであると言っても過言ではない。
歩み寄りと対立の繰り返し
ロシアでNATOに加盟しようと最初に決意したのは、エリツィン大統領であった。1991年、ソ連末期の頃に彼はロシア共和国の最高会議議長としてNATO事務所に公式の手紙を送った。その手紙には「我々は、ロシアのNATO加盟を検討してもらうよう提起するつもりである」と書いていた。
当時、NATOはびっくりし、戸惑っていた。NATO諸国が一番恐れていたのは、ロシアが大きすぎるので、加盟させるとNATOそのものが破綻してしまうことだった。NATOは具体的に協議することをせず、結局その動きを黙殺してしまった。
*1=NATOは、米国と欧州の自由主義諸国によって結成された政治的、軍事的同盟である。2009年7月現在、28カ国が加盟している。