エマニュエル氏、次期オバマ政権首席補佐官への就任を受諾

シカゴのご縁が今に活きている(エマニュエル大統領首席補佐官)〔AFPBB News〕

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 共和党支持が大勢を占める米金融界にあって、ダイモン氏は異色とも言える民主党支援者だ。シカゴの地元銀行トップと政治家。サロン的な穏やかな社交の場で、ダイモン氏は、2004年の上院選での国政進出を目指していたオバマ州議会議員、クリントン政権でホワイトハウス上級顧問を務め2002年に下院議員に当選するエマニュエル氏に出会った。

 当時、彼らが手を携えてホワイトハウスを奪取することを想像するのは難しかったに違いない。しかし、生粋のニューヨーカーだったダイモン氏がシカゴで得た知己は、同氏の反転攻勢に不可欠で極めて重要な礎となった。

 ダイモン氏はバンクワンで経営手腕を遺憾なく発揮。業績回復に道筋をつけた上で、2004年にはリテール業務の強化を目指すJPモルガンとの経営統合を実現した。新生JPモルガンの社長兼最高執行責任者(COO)に就任すると、2年後には会長兼CEOに昇格し、かつて自分を見捨てたウォール街への凱旋を果たした。

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 ダイモン氏は当時、大衆紙USAトゥデーのインタビューで、シティ解雇以降の経験から学んだ教訓を問われて「決して問題から逃げないこと」と答えている。JPモルガンではリスク管理を徹底し、他社を尻目に住宅バブル崩壊による資産劣化を抑制。同社を監督するニューヨーク連銀のガイトナー総裁(現財務長官)とは、緊密に連絡を取り合うホットラインを築いた。

 ダイモン、ガイトナー両氏の絆の強さは、2008年3月のベアー・スターンズ救済、同年9月のワシントン・ミューチュアルの銀行部門買収に際し、受け皿金融機関として、JPモルガンに白羽の矢が立ったことが証明している。ガイトナー氏は、金融システム崩壊を防いだ実力を買われて政権入りしたが、ダイモン氏の貢献度は軽視できない。

 米国の政財界は人脈が生命線だ。ダイモン氏がバンクワンの身売り交渉でカウンターパートだったのは、JPモルガンの中西部地区責任者ウィリアム・デーリー氏。同氏は2期目のクリントン政権で商務長官を務め、2008年の大統領選ではオバマ候補の選挙参謀に名を連ねた。

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 デーリー氏は、オバマ氏が当選を果たすとブッシュ前大統領からの政権移行チームに加わり、くしくも金融危機への対応に追われていたダイモン氏と次期政権をつなぐパイプ役を果たした。

 すべての歯車が噛み合い、ダイモン氏は「大統領お気に入りのバンカー」(NYタイムズ)という地位を獲得した。首都で開く取締役会に財務長官と大統領首席補佐官を招く大胆な試みも、政界への影響力に対する強い自信の発露と言えよう。

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 しかし、米国では500行以上の金融機関に公的資金が注入されたままだ。JPモルガンは早々に返済を終えたが、ウォール街を代表する金融機関と政権の露骨な接近は、雇用不安を抱えながら金融システム維持の負担を強いられている米国民の強い反発を引き起こしかねない。

 JPモルガンは4―6月期に7四半期ぶりの増益を確保したが、牽引役は株価回復を追い風とした金融取引の収益で、マーケットが動揺すれば吹き飛ぶ危険をはらむ。長引く不況で同社の不良資産は1年前の2.8倍に膨らんだ。シティやバンカメに比べて貸倒引当金は潤沢だが、景気先行きは不透明で、財務への不安はゼロではない。

 逆境から這い上がったダイモン氏の実力は折り紙付きだ。しかし、巨額損失にまみれて部分国有化の憂き目に遭うシティとの関係を断ち、シカゴで現政権中枢との太いパイプを得られたのは時の運。奢れる者は久しからず。NYタイムズの記事を戒めとして、自らのパワーを制御できるかどうか。バンカーとしての真価が問われている。