今回も前回に引き続きロシアの電力セクターについて見ていきたい。順調な景気拡大の中で推し進められてきた電力セクター改革だったが、昨年秋の世界経済危機を境目に大きく状況が変わりつつある。ロシアの電力会社は、改革が完了したと言っても政府から強い影響力を受けざるを得ない。その設備投資計画を巡る政府と電力会社の攻防などについて紹介しよう。
1.マスタープラン
ロシア統一電力システムと電力バランス予測局(当局)はロシア電力産業の行方を「2020年までの電源立地のゼネラルプラン(日本では一般的にマスタープランと呼ばれるもの)」にまとめた。
その趣旨は簡単に言うと、年間電力消費量は平均4.1%増で推移すると予測しており、2006年に約9600億kWhだった電力消費量は2020年までに最も需要が増えた場合、2兆kWhに近づくと推定されている(図表1参照)。
それによって 必要とされる発電能力は2020年までに最大3億9770万kWに増加すると予測されている。 既存発電能力の更新及び能力増強計画に基づいて計算すると2020年までに必要となる追加新規発電能力は最大1億8740kWとなる(図表2参照)。
そのため電力会社に膨大な設備投資計画が割り当てられた。しかもロシア政府は、民間企業である電力会社の株主に対し、その設備投資計画を遵守することを求めている。旧ソ連時代の経済崩壊で1990年代に起きた電力不足問題を二度と繰り返さないための処置である。さらに、新規発電設備の導入を遅らせている企業に対しては、設備投資額の25%相当の罰金を支払わせるという厳しい内容となっている。
2.マスタープランの現状に合わせた修正、政府の対応
ところが、2008年11月に始まった世界的な経済危機で、電力消費は減少し、その傾向は2009年も続いており、今年第1四半期には前年同期比マイナス6.7%となった。エネルギー省の予測では2009年通年の電力消費量はマイナス4.5%となると発表されている(図表3参照)。
こうした環境変化により、当然ながら設備投資計画の見直しを求める声が相次いだ。そのため、民間企業の設備投資軽減について年明けから検討が行われたものの、政府とエネルギー省の対応が遅れたり矛盾したところがあったので、電力会社の間で一時不安が広がった。
4月15日に開催された原子力会議では、プーチン首相が設備投資を怠っている電力会社を厳しく批判した。一方で、シュマトコ・エネルギー大臣は新規の電力施設導入計画については見直す必要があると主張し、柔軟な対応を示した。ところが、設備投資計画を忠実に実行している電力会社の「良い株主ランキング」を発表するなど、プーチン首相と同様に批判的な立場を取るなど、方針に一貫性を欠いていたのだ。
現実には、2008年の新規発電設備の導入は計画の68%となっており、2009年には計画の50%にとどまる見通し。2009~2011年の設備投資3カ年計画では、現在までに実施されたり実施が見込まれているのは全体の33%程度。
この中で新規発電設備はその31%が1年間延期され、36%が1年以上延期されることとなった。これらの数字は今年4月末に開かれたインターファクス主催のエネルギーフォーラムで発表され、ロシア政府が現状を把握できていないことが浮き彫りとなってしまった。