日本人バンカーがワシントンで旗揚げした金融ベンチャー、マイクロファイナンス・インターナショナル(MFIC)はこのほど、米連邦準備銀行(Federal Reserve Banks=FRB)と業務提携した。今秋にもFRBの米国内決済システムとMFICの海外送金システム(ARIAS)が接続され、全米で働く中南米系移民が祖国へ仕送りする際の利便性が格段に向上する。MFICの枋迫篤昌(とちさこ・あつまさ)社長の目指す「送金革命」は第2幕を迎え、日本を含むアジアへの事業展開も視野に入れ始めた。
2009年1月14日の当コラム「『送金革命』実現した日本人バンカー」で紹介したように、枋迫氏はかつて東京銀行マンとして中南米各国で活躍。東京三菱銀行のワシントン事務所長などを歴任後、2003年に一念発起してMFICを設立した。
エリート行員生活を捨てた枋迫氏は、東銀時代に世話になった中南米各国への「恩返し」を起業の原点とする。米国内の中南米系移民は5000万人に達するが、その大半が貧困層であるために銀行口座を開設できない。米国への移民が最も多いメキシコでは、人口の7割が口座を持っていないという。
このため、移民労働者は送金額の10%にも上る高い手数料を泣く泣く支払い、送金専門業者を通じて祖国の家族へ仕送りをしていた。
銀行サービスから疎外された「Unbanked」の移民労働者を救うため、枋迫氏のMFICはインターネット上で送金を行う独自のソフトウエア「ARIAS」を開発した。例えば3000ドルを送金する場合、手数料は20ドル程度で済み、送金専門業者に比べるとケタ違いに安い。各国の主要銀行が加盟し、国際送金を取り扱う国際銀行間通信協会(略称SWIFT、本部ベルギー)のシステムにはない機能を備え、送金手数料の分野でMFICは「価格革命」を実現した。
マネロン規制が追い風、コンプラ機能を最大の武器に
MFICのARIASはSWIFTよりもソフトウエアの動作性が軽くて速く、コストを大幅低減しただけではない。2001年の同時テロ以降、米国を筆頭に各国のマネーロンダリング(資金洗浄)規制が急速に強化され、それがMFICに追い風となった。送金を受け付ける際、その利用者が怪しいかどうか瞬時に自動確認するコンプライアンス機能こそ、ARIASの最大の武器なのだ。
常識破りの安価な手数料に、万全のマネロン対策。枋迫氏のベンチャー精神とMFICのシステムを、米政府や世界銀行などの国際機関が高く評価した。FRBもそのうちの1つであり、MFICとの業務提携交渉を水面下で続けていた。
今回の業務提携で今秋には2万に上る全米の金融機関の拠点が移民労働者の送金窓口となり、巨額の「仕送りマネー」がFRBの国内電子決済システム(FedACH)とMFICのARIASを通じ、インターネット経由でブラジルやコロンビアなど中南米各国に届くようになる。移民労働者から仕送りを待つ家族は、銀行口座を持っていなくてもおカネを受け取れる。