インターネットは情報の伝達には便利な道具だが、その情報の信憑性が検証されないため、無責任な書き込みも多い。特に、ネットを悪用し、猥褻な画像を流すなど、犯罪の温床になっていることも事実である。

 中国のような共産党一党支配の旧社会主義国にとって、ネットに関するもう1つの悩みがある。それは、公式のメディアで禁止されている政府に対する批判がネットならできることだ。中国の法律では、これらの行為は社会の不安定化を扇動するものとして認められていない。

 そこで政府はある考えを思いついた。新規発売されるすべてのパソコンに「グリーン・ダム・ユース・エスコート(Green Dam Youth Escort)」という検閲ソフトの導入を義務づけるのだ。その大義名分は、「青少年を有害サイトから守る」こととされていたが、政府批判につながる情報を検閲・遮断することも大きな狙いであることは明白である。

 グリーンダムは7月1日から正式に導入が義務づけられるはずだった。しかし国内外からの批判が沸き起こり、直前の6月30日になって、この措置の延期が発表された。

一体、何が「有害」なのか

 ネットの利用にルールは必要だろう。だが、ルールを設けるのが政府の役割かどうかについては、大いに疑問が残る。

 日本でも、犯罪や自殺を呼びかけたりするネット上の書き込みに対する摘発が強化されている。確かに、犯罪や猥褻の取り締まりといったネットの浄化は必要である。とはいえ、政府が一律にネットを検閲するとなると、明らかに行き過ぎた行為だと言える。

 有害な情報を流すサイトがあれば、そのプロバイダーが浄化に責任を持つべきである。プロバイダーそのものが故意に有害な情報を流しているのであれば、当局はプロバイダーを摘発すべきである。

 今回の検閲ソフト導入の間違ったところは、有害情報源を摘発する狙いでありながら、結果的に消費者が自由に情報にアクセスすることを規制してしまう点にある。その点こそが、今回導入されるソフトが「検閲ソフト」と呼ばれるゆえんである。

 まずは、政府はネット上の何を規制すべきか、どこまで規制すべきかを再検討しなければならない。何よりも、単なる猥褻な画像や文字が対象なのかどうか、有害の情報の定義を明らかにしなければならない。