仏ルーブル美術館のアブダビ別館(アラブ首長国連邦=UAE)の建設が最終合意に達し、アブダビ沖サディヤット島の「砂漠のルーブル」が2012~13年の開館を目指して着工された。
サディヤット島の文化地区にはルーブル別館のほか、グッゲンハイム美術館なども並行して建設中。巨費を投じて文化観光拠点を築くという、同島開発計画が参考にするのは、美術館が衰退する街を復活させたスペイン・ビルバオの成功例だ。
美術館誘致で都市再生、「ビルバオ効果」とは?
スペイン北部バスク州のビルバオは、伝統的な工業・港湾都市だ。しかし、経済環境の変化により鉄鋼プラントが閉鎖に追い込まれるなど、急速に産業基盤を失ってしまった。また、分離独立を目指す民族組織「バスク祖国と自由」の活動に伴う、政情不安も懸念材料となっていた。
悪化するイメージの払拭と再開発を目的として、ビルバオはニューヨークのグッゲンハイム財団が持つ文化資本に着目した。一方、グッゲンハイムも財政危機を背負い、世界各都市との連携に活路を求めていたから、ビルバオからの打診はまたとない機会となった。
1991年、ビルバオにグッゲンハイム美術館を建設することが合意される。バスク州政府が建設費1億ドルを負担し、美術品の新規取得費用5000万ドルもグッゲンハイムに支給。さらに年間1200万ドルの運営費を補助することになった。
それと引き換えに、グッゲンハイムは新美術館に「グッゲンハイム」の名称使用を許可し、所蔵美術品を提供。いわば、グッゲンハイムのフランチャイズ化が実現した。ちなみに、ルーブル美術館がアブダビ政府と交わしたのも同様のフランチャイズ契約である。
こうしてグッゲンハイム美術館のビルバオ別館は、1997年にオープンした。フランク・ゲーリー氏による建築デザインが注目を集め、1998~2006年の来館者数は920万人を記録し、当初予想の年間50万人を大きく上回った。その大半をスペイン外からの観光客が占めている。ビルバオはほかに観光資源が乏しく、旅行客の目的はほとんどが美術館来訪と言われる。抜群の集客力のおかげで、バスク州政府は負担した建設投資額を3年間で回収できた。
美術館誘致で観光都市として再生したこの成功例は、「ビルバオ効果」と呼ばれ、都市開発の1つのモデルとなった。冒頭紹介したサディヤット島の開発も、これを忠実に継承しているように見える。