オバマ米大統領が、大恐慌以来約70年ぶりの規模という金融規制・監督の改革案を発表した。金融危機を教訓として規制緩和の流れに終止符を打ち、一気に規制強化へと大きく舵を切った形だ。一方、業界団体は全力を挙げて改革の「骨抜き」を狙う。「逆ビッグバン」を目指すオバマ政権の挑戦は、果たして成功を収めることができるだろうか。

米、金融規制強化へ70年ぶり大改革案

金融規制強化、70年ぶり大改革〔AFPBB News

 「無責任の文化はウォール街からワシントン、一般国民にまで根差している」。2009年6月17日、オバマ大統領はホワイトハウスでこう強調しながら、金融危機の再発防止には規制・監督体制の抜本改革が不可欠だと訴えた。

 金融の技術革新は、証券化という「打ち出の小槌」を生みだした。銀行は融資焦げ付きのリスクを資産担保証券(ABS)という形で転売し、投資家はその「AAA」格付けを信じ切り、買い漁るようになった。

 リスクから解放されたと思い込んだ銀行は、住宅ローンの融資基準を過剰なまでに緩くする。金融界は「どうせ証券化して売り飛ばすのだから」というムード一色となり、市場原理を過信した共和党のブッシュ前政権がそれを野放しにした。

 一方、低所得者層は返済条件をよく確認しないまま、あるいはそれに関して満足な説明も受けず、分不相応な高額のサブプライムローンを組んだ。

 そして、全米を挙げた「巨大ねずみ講」は破綻の時を迎える。リスクを回避したはずが、金融システム全体ではリスクが集積する結果を招いた。金融行政は業界ごとの縦割りだから、システム全体を俯瞰してリスクを監視する者がどこにもいなかったのだ。

縦割り行政を排除、「負の遺産」を一掃へ

 オバマ大統領の規制・監督強化は、こうした行き過ぎた規制緩和からの決別宣言なのだ。

 改革案では連邦準備制度理事会(FRB)に強大な権限を与え、銀行だけでなく、証券会社や保険会社もFRBの監督下に置く。金融システムを脅かすような金融機関や市場の動きを、一元的に監視するのが狙いだ。また、縦割り行政がもたらす規制の抜け穴をふさぐため、監督当局で構成する「金融サービス監督協議会」(FSOC)を設ける。

 さらにABSの裏付け資産となる住宅ローンなどについて、その5%を金融機関・企業の手元に残すよう義務化し、証券化商品を創出した責任から逃れられないようにする。

 格付け機関の規制を強化する。それと同時に、リーマン・ブラザーズやアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)を破綻に追い込んだクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)など、金融派生商品(デリバティブ)にも法規制の網を掛ける。

 一方で、「消費者金融保護庁」(CFPA)を創設し、銀行経営の健全性監視に偏重した金融行政を改め、消費者保護重視の姿勢を鮮明にしている。主眼は「プレデトリー・レンディング」と呼ばれる詐欺的な貸し込みの防止にあるが、金融商品・サービスの提供を受ける側の国民に自己責任を求める布石でもある。

サッチャー元英首相に関する新事実!?30年前の機密文書公開

ビッグバン断行した「鉄の女」(参考写真)〔AFPBB News

 1980年代に英国のサッチャー政権が断行した証券制度改革(ビッグバン)が号砲となり、世界各国は規制緩和に突き進んだ。1996年からは「フリー、フェア、グローバル」を合言葉に、日本版ビッグバンもスタートを切っている。

 米国では1933年のグラス・スティーガル法で定めた銀行と証券の垣根分離を、1999年に成立したグラム・リーチ・ブライリー法で事実上撤廃して相互参入を認めた

 だが、連邦預金保険公社(FDIC)の創設など、大恐慌時に原型がつくられた商業銀行主体の監督体制は温存され、金融技術の革新とグローバル化の流れに取り残されてきた。金融界に都合の良い規制緩和を推進しても、監督体制の刷新は怠ってきたわけだ。ビッグバン路線の「負の遺産」を、オバマ政権は一掃しようとしている。