フランスの6月は、午後10時を回ってもまだ空が明るい。日本のような梅雨もなく、おおむね爽やかな晴天が期待できるから、この絶好のコンディションを利用したイベントが目白押しである。
その中の1つに、競馬の「ディアンヌ賞」というのがある。これはフランス競馬のグランプリレースの1つで、シャンティーイ競馬場で毎年6月の第2日曜日に開催される。フランス競馬といえば、パリのロンシャン競馬場で10月に行われる「凱旋門賞」が最も有名だろう。
武豊騎手が参戦した年、これを観るためにやってきた日本人の数は数千人にも上ったと言われる。この「凱旋門賞」の賞金は、400万ユーロ(1ユーロ135円換算で5億4000万円)。そして6月の第1週にある「ジョッキークラブ賞」が150万ユーロ、「ディアンヌ賞」の80万ユーロと続く。
今年で160回目を数えるフランスで最も優美なレース
「ディアンヌ賞」が最初に開催されたのは、1843年。以来、3歳の牝馬による2100メートルのレースという伝統は受け継がれ、今年で160回を数える。レースの行われるシャンティーイという土地は、壮麗なシャトーに隣接して、かつての王の大厩舎がある。
現在ここは、「生きた馬の博物館」として、馬術に関する様々な展示がされているほか、それこそ「生きた馬」もいて、それらによるデモンストレーションがあったりする。
さらに、このあたり一帯の広大な森は、競走馬たちが日々訓練を重ねる場所にもなっていて、世界中からサラブレッドを預かって調教する、著名な調教師たちの厩舎が点々としている場所でもある。
さて、今年の6月第2日曜は、雲ひとつない晴天になった。午前11時37分、パリ北駅から、シャンティーイへと向かう列車は、いつもよりも車両の多い編成。車内はだいぶおめかしした人々ですっかり満席で、いそいそとした雰囲気で満ちている。
紙袋から取り出したしゃれた帽子をちょこんと頭に載せて、連れのお友達に披露しているマダムがいる。そう。この「ディアンヌ賞」は、エレガントな帽子の女性たちが集うことで知られるレース。競馬場がもっとも華やかに彩られる日なのである。