会社を辞めて、作家一本になれば、月々の給料が入らなくなる。
そんなことは分かりきっていたし、大した金額をもらっていたわけでもないのだが、最初のうちは以前の給料日が来るたびになんだか損をしたような気がしていた。もちろん今だって不安でないことはない。
どれほど力を注いだところで、編集者にダメですと言われてしまえば、その小説にかけた労力と時間は1円の収入も生み出さない。
OKが出て、雑誌に掲載されれば原稿料が入る。ただし、それが単行本になるかどうかは出版社サイドの決めることであって、こちらからは手も口も出しようがない。
「原稿料 → 単行本の印税 → 増刷 → 文庫本の印税」と巡ったうえに、映画化・TVドラマ化のオマケがつけば言うことはないが、そうしたサイクルに乗っているのはごくごく一部の人気と実力を兼ね備えた作家のみである。
そして人気作家には人気作家なりの、つまり多作を求められるうえに、常に一定以上の売り上げを達成しなければならないという悩みがあるだろう。
私に関して言えば、作家生活9年目で単行本が11冊。文庫が2冊。芥川賞候補5回、つまり5回落選というのはおそらく現役最多で、自分としてはよく頑張ってきた方ではないかと思っている。もっとも出版社からすれば、ずいぶん目をかけてやったのに、いつまで経っても芥川賞を取らず、ヒット作も生まない困り者というのが本音ではないだろうか。
それはともかく、雑誌や新聞で小説を連載している間は毎月まとまった収入があるが、そうでないと3~4カ月実入りがないことなどザラである。
短篇が得意なら、それほど長く間が空きはしないだろう。ところが、こちらはあいにく中篇・長篇が得手ときている。貯えがあるならまだしも、カツカツで暮らしながら、いつできるとも知れない小説を書き続けるのはなかなかしんどい作業である。
しかしそこには、創作の喜び・苦しみと共に、今度こそ売れるかもしれないというはかない期待もかけられているわけで、たとえ落胆に終わったとしても、刺激にだけはこと欠かない。
そもそも小説家を志した時点で、安定した人生設計は半ば捨てている。ただし、半ばというのがいかにも情けないところで、ようやく発表した小説が一つも評判を呼ばず、担当編集者からの連絡もぱったり途絶えた時など、やはりおとなしく勤め人をしていればよかったと後悔することしきりである。
1年半続いた夫の暴力
さて、ここからが本題なのだが、先日大学時代の友人から、彼の妹夫婦のことで相談を受けた。妹の夫がリストラされた不満から家庭内で暴力を振るう。子供たちのいる前でも妻を殴り、倒れたところに蹴りまで入れる。