2009年1月。フランスに新しい村が誕生した。
その名はSource Seine(ソース・セーヌ=セーヌの源)。村内に、セーヌ河の源流があることから選ばれた命名である。
場所は、ブルゴーニュ地方の中心都市ディジョンの北西約40キロ。パリからは車で3時間ほど。なだらかな丘が連なる緑のカーペットの上に、放牧された牛や羊が点々とする大自然の中にその村はある。
私がその土地を初めて訪れたのは2001年のこと。セーヌの源流をひと目見てみたいという思いからだったが、それ以後、源流の家族と親しくなり、しばしばその家に足を運ぶようになって既に8年。この土地の季節の移り変わりを幾度も目にすることになった。
村と村が合併したのに住人はわずか52人
合併の話は、去年の終わりくらいに、その家族から聞いていた。この家のあるサンジェルマン・ソース・セーヌ村と、となり村、ブレッセイの合併。日本人の感覚で言えば、それらは2つとも、村と言うにはあまりにも小さく、むしろ2つの集落と言った方がしっくりとくる。片や人口30人、もう一方が22人という規模なのである。
「村」という言葉を使ったが、フランスでは日本のように、村、町、市の区別はあまりはっきりとはしていなくて、最小の行政単位のことをcommune(コミューヌ)と呼ぶ。では、何人からならコミューヌと認められるのか、と村人に問えば、「住人のいないコミューヌもフランスにはあるよ」という答えが返ってきた。
無人の村。
戦災で壊滅的な被害に遭って以来、住む人はなく土地だけがあり、けれども一個の地方自治体としての名は残っているという、それはいわば特異な例だとしても、人口20人、30人という自治体がこの国にはあり得る。
ただ、そこで問題になるのが、村議会を開催するには、議員が最低でも9人はいなければならないという決まり。それもメンバーは18歳以上という規則があるから、例えば人口20人の村で会議を開くというのは、実際問題とても困難なことである。
このたびの合併のいちばんの理由はそこにあると、新村長のジャン=ルイ・ボーニエさんは話してくれた。さらに、生活に欠かせない資源を共有管理するというのも大きい。片方の村には水があり、もう片方には森がある。フランスの地方では、いまでも薪をたくさん使うから、森もまた水と同様に重要なのである。