また、ガズはニジニ・ノブゴロドの同社の工場で今後9カ月以内に生産ラインを確立、2010年には年間18万台のオペル車を生産することを目論んでいる。
しかし、このディールが成功した背景には当事者間の意欲に加え、関係各国政府の思惑が一致したことが大きい。ドイツ国内の雇用維持を図りたいドイツ、GM破綻の影響を最小限にとどめたい米国、そして自国の自動車産業発展を図りたいロシア、いずれも政府の強力なバックアップがあり成立したディールと解説されている。
調印直後にモスクワ郊外のロシア正教会視察のために現れたプーチン首相が、わざわざ自身の愛車、1956年ガズ製の「GAZ-21」を運転して登場したことがそれを端的に物語っている。
この数日前には ロシアの大手インターネットグループのデジタル・スカイ・テクノロジーズ(Digital Sky Technologies=DST)が米ソーシャル・ネットワーキング・サービス大手のフェースブックに2億ドルの投資を行ったことが発表された。
時価総額1兆円のフェースブック株も保有
未公開企業であるフェースブックの時価総額は約1兆円と言われており、DSTは1.96%の優先株を保有、さらに今夏までに1億ドルの追加融資を行い普通株式を取得するという。
DSTはロシア国内の最大手フリーメール mail.ru のほか、ロシア語圏13カ国でのSNS事業も展開している。 今回の投資はフェースブックの経営に関わるわけでもなく、純粋な投資の1つとしているが、SNS事業の更なる国際展開に関心を持っていることは間違いない。
本件はオペルの件とは違って、特に両国政府が背後に控えていたという話は聞かないが、逆にインターネットビジネスにおいて両国を代表する企業が協力し合うことに対し、全く干渉しなかったことに注目したい。 ロシアでは、インターネット産業は資源・エネルギー産業とは異なり、国家的に重要な「戦略産業」のカテゴリーには分類されていない。 これにはメドベージェフ大統領の強い意向が働いたと言われている。
そして、経済危機のさなか、貴重なキャッシュを国外に投じるのは企業だけではない。
5月27日、ロシア政府は国際通貨基金(IMF)が組織結成以来初となる債券について、100億ドルの出資を行うことを発表、同日IMFサイドもこれを受け入れる旨発表した。 ロシア政府としては、当然のことながらIMFにおける発言権の増大を狙っているものと思われるが、中国はじめ新興国の出資を受け入れざるを得ない懐事情を反映して、IMFサイドも一応、歓迎の意思を示している。
しかし、IMFは90年代はロシアに対してまさに箸の上げ下ろしまで指図していたのである。その後の10年余でワシントン・コンセンサスが崩壊し、BRICsに代表される新興国が台頭し、米国、および先進国経済が相対的に地位を低下させ、まさに天と地がひっくり返った感がある。
さて、こうした積極的な海外投資に打って出るロシア企業、政府に対し日本はいかに対応すべきであろうか。結論から申し上げると、ロシアだから何か特別なことがあるわけではない。日本においてロシアンマフィアがマシンガンを片手に会社を乗っ取りに来るという話は論外だし、巷間喧伝されるロシアマネーによる日本企業買い漁りといった話には根拠のないものがほとんどである。
実際、ロシア人ビジネスマンと話をすると、日本企業の「技術」は魅力だが、中国や台湾、シンガポール企業には「利益」が見えているから、ついそちらに目移りするという話をよく聞かされる。まずはロシア企業の関心を如何に日本に引き寄せるかが第一歩のようだ。