贔屓の野球チームが勝った日は気分がいい。まして、負けを覚悟した試合が逆転サヨナラ勝利となれば喜びもひとしお。リモコン片手にスポーツニュースをハシゴするのはファンとして基本だが、それだけでは飽き足らず、夜中にニコニコ動画やユーチューブなどの動画共有サイトで決勝シーンを再生してニンマリ――というのは、私だけではないハズ。しかし、その動画がアメリカからやってきていることを知っている人は意外と少ないのではないだろうか。

 光回線の普及に伴い、インターネットの通信量(トラフィック)は、右肩上がりに上昇している。総務省の推計によれば、2008年11月のブロードバンド契約者の通信総量は988.4Gbpsで、4年前の2004年11月の319.7Gbpsと比べて3倍以上。1年前の2007年11月の812.9Gbpsと比べても2割強の増加が続いている。

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海外データセンターへの依存度が高まっている〔AFPBB News

 膨大な量の情報の通り道となり、一時保管場所ともなっているのがデータセンターと呼ばれる施設だ。通信量の増加に伴い、データセンターの増設が必用となるが、近年、日本のネットサービス事業者が、米国のデータセンターを利用するケースが増えている。その結果、甲子園で金本が打ったサヨナラホームランも、人気アイドルの結婚会見の映像も、かなりの確率で、太平洋の海底ケーブルを往復して私たちのPC画面に映し出されているというのだ。

 なぜ、日本で利用する情報が、わざわざ、海外のデータセンターを経由して日本に入ってくるのか。つきつめて言えば、日本のデータセンターの国際競争力の低さにその原因がある。

 地価や法人税の実効税率が高いことに加えて、地震の多い日本は諸外国に比べて建築基準が厳しい。ただでさえ建設コストがかさみがちなところに、消防法が大きな障壁となっている。

 サーバーの集中管理などを目的として設置されるようになったデータセンターは、企業のオフィススペースとは切り離されて郊外エリアに設置されることも多い。建物内には機器がぎっしりと並べられているだけで、常駐しているのは保守管理に伴う限られた要員のみ。事実上の倉庫にもかかわらず、日本では何百人もの人が働くオフィスビルと同じ基準で消防施設の設置が義務付けられている。

 大量の電力を消費するデータセンターにとって、省エネは至上命題。しかし、サーバーなどから放出される暖気を隔離して管理するために密閉度を高めようとすると、消防法で、より厳しい消火設備を求められる可能性がある。省エネするほどに防火コストが増大する矛盾に陥ってしまう。

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米動画共有サイトは日本でも大人気〔AFPBB News

 電力自由化により電力会社の供給義務が緩和され、米国のような超大型の高効率データセンターが建設しづらくなったことも理由の1つ。さらには、スポーツ中継やテレビドラマを録画した動画が大量に出回るサイトでは、著作権上の問題を曖昧にするために、あえて、国内にデータセンターを置かない選択をする事業者もあるようだ。

 この結果、2002年以降、日本のインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)の海外データセンターの利用が徐々に増え、2004年頃から、海外から日本に流入する通信量が、日本から海外に流出する通信量を上回る「輸入超過」となっている。

 データの「貿易赤字」は拡大の一途をたどり、2004年には20%だった全通信量に占める海外からの流入シェアは、2006年に30%を超え、今や40%に迫る勢いだ。米国のデータセンターを利用していても、光通信では往復0.3秒しかかからないため、一般のユーザーが娯楽系コンテンツを楽しむ分には、何の支障もない。もちろん、映像が海の向こうからやってきていることに気づいてすらいないだろう。