大モンゴル主義は夢また夢
モンゴル人の嫌中感情については以前ご紹介したが、これはあくまでモンゴル(外蒙古)国民の話であり、中国国内の内モンゴル自治区の蒙古族はちょっと状況が違う。
そもそも、現在モンゴルという国家である外モンゴルのモンゴル人と、中国の自治区である内モンゴルに住む蒙古族では部族が異なり、話すモンゴル語も微妙に異なるそうだ。また、蒙古族の中にもモンゴル語が喋れないか、喋れても訛りのある人が少なくないという。
内モンゴルの蒙古族は自治区総人口2400万人の2割に過ぎない。歴史的に中国領内に取り込まれた蒙古族は、生き残るために「漢族よりも漢族らしく」振る舞う必要があったのだろうか。これまで内モンゴルではウイグルやチベットのような騒乱は起きていない。
また、蒙古族の中には似非「モンゴル系」も少なくないという。少数民族は2人以上の子供を持てるからだ。さらに、外モンゴルのモンゴル人は内モンゴルの蒙古族に対し意外に冷淡だとも聞いた。どうやら蒙古族も、南北の「モンゴル人」も決して一枚岩ではないようだ。
ちなみに、報道では蒙古族の「遊牧民」が轢死したとされているが、蒙古族は基本的に定住して近くの草原に家畜を放牧しているので、正確には「遊牧民」ではなく、「牧民」と呼ばれるらしい。この意味でも、外蒙古と内蒙古では生活様式が微妙に異なるようだ。
政治家・胡春華に対するテスト
以上のように、内モンゴル自治区はこれまで比較的安定しており、少数民族問題はあまり深刻ではないと考えられてきた。そこに派遣されたのが胡春華だ。この第6世代のホープの経歴については以前書いたので、ここでは繰り返さない。
続いて、今回中国当局が取った措置を関連報道に基づき簡単にまとめてみよう。
●シリンホト、フフホト両市内に戒厳令を敷き、省都フフホトに大量の軍隊を投入した。
●モンゴル語チャットサイトを閉鎖し、外国記者の立ち入りを厳しく規制した。
●「内モンゴル」といった言葉がネット上で検索できないようにした。
●ネット、携帯電話を遮断した上、大学を封鎖し、学生は外出が禁止された。
●特に、シリンホトの高校生を学校に集めたまま、夜帰宅させずに“軟禁状態”に置いた。
●24日、牧民を轢き殺したトラックの運転手らを逮捕した。
●地元の弁護士会会長は「主犯は最も厳しい懲罰を受けるだろう」と指摘した。
●27日、西ウジュムチン旗・党委員会の海明(ハイミン)書記を解任した。
●29日、内モンゴル自治区政府は、少数民族支援策に788億元(約9800億円、前年比で54%増)以上の資金を今年中に投入することを決定した。
●同自治政府は、鉱山開発に伴う環境破壊の補償制度や草原を通行する大型トラックの管理強化などを検討している。
●中国政府は、鉱業業界が環境と住民生活に与える影響を調査し、トラックなどの関連車両から草原を保護し、鉱山作業員の訓練・管理を改善する措置を講じると表明した。
●27日、胡春華書記は西ウジュムチン旗の教師・学生らと面会した。その中で同書記は
-「最近の事件が世論の大きな怒りの引き金となった」
-「われわれは法の尊厳と犠牲者とその家族の権利をしっかりと擁護する」
-「容疑者らは法的手続きに従って直ちに厳しく罰せられる」と強調した。
●31日、環球時報社説は、「事態は沈静化に向かっている」「蒙古族の要求には合理的な部分もある」「蒙古族住民の一部が、鉱山採掘の影響をはじめ工業化の波を前に不安を抱いていることは理解できる」と述べた。
