日本では大ニュースにならなかったが、実は今年3月4日以降、南シナ海で米中艦船による一触即発の「接近遭遇」が発生していた。
中国の艦船5隻が米調査船を妨害
場所は海南島沖約120キロの公海上。中国艦船が米海軍調査船などに対し、強い照明を当てたり、針路に木材を投げ込むなどして活動を妨害したらしい。
同月9日、米国防総省は「国際法違反」として中国側に抗議した。
もちろん、中国側は「中国EEZ(exclusive ecoomic zone=排他的経済水域)内で許可を得ず不法な測量を行い、国連海洋法条約違反だ」と反論する。国際法上の議論も重要だろうが、それ以上に重要なことは事件が起きた「政治的」目的とタイミングだ。
繰り返して申し上げるが、今の中国においてすべての言動には政治的意味がある。軍事行動についても例外はない。
この事件がオバマ政権発足後初めて中国の楊潔箎外相が訪米する約1週間前に発生したことは決して偶然ではないと見るべきだ。今回はその理由からご説明したい。
再び米新政権に対するテストは繰り返されたのか?
今回の事件を偶発的と考える識者はいない。これだけ組織的な妨害活動が中国で偶然発生する可能性は極めて低い。外相訪米直前に起きたこの事件について、中国外務省は事前に知らされていないだろう。
確たる証拠があるわけではないが、個人的には、今回の事件も人民解放軍の一部が仕かけた「米新政権の意思」のテストである可能性が強いように思えてならない。そう考える最大の理由は以前にも同じような事件があったからだ。
長くなるが、8年前の事実関係を簡単におさらいしておこう。この事件は21世紀の米中軍事関係の原点と言っても過言ではない。
2001年4月1日、南シナ海上空で中国空軍の戦闘機が米軍のEP-3機に接触して墜落し、米軍機が中国領内に緊急着陸した。この事件は2つの点で重大な意味を持っていた。
第1は、同米軍機が米海軍の電子偵察機であったこと。第2は、両国の軍用機が接触したのが海南島沖の上空であったことだ。