(筆坂 秀世:元参議院議員、政治評論家)

芯になる路線がない菅義偉政権

 安倍首相が辞任し、菅義偉政権が誕生した。「安倍政治の継承」と言われているが、本当はよく分からない。ただこの政権は、そもそも芯になる「路線」と呼べるようなものは持っていないように思える。9月16日の菅首相の会見をみてもそれが分かる。

 冒頭で、「安倍政権が進めてきた取組をしっかり継承して、そして前に進めていく、そのことが私に課された使命である」「経済の再生は引き続き政権の最重要課題です。金融緩和、財政投資、成長戦略、3本を柱とするアベノミクスを継承して、今後とも一層の改革を進めてまいります」と「安倍政治の継承」を強調した後に述べたことは、コロナ対策やGoToキャンペーン、デジタル庁の新設などの個別案件だけである。

 そして自慢したのがふるさと納税である。「ふるさと納税を、官僚の大反対の中でありましたけれども、押し切って立ち上げました。それは、地方から東京に来た人たちは、自分を育ててくれたふるさとに何らかの形で貢献をしたい、何らかの形で絆(きずな)を持ち続けていたい、そう思っているに違いない」と考えたからだと語った。

 私は、このふるさと納税が大嫌いである。もちろんこれによって厳しい財政が改善した自治体もあることは知っている。しかし、納税者が本当に「自分を育ててくれたふるさとに何らかの形で貢献をしたい」と思ってやったことなのか。だとすれば大阪・泉佐野市出身の方々は、よほどのふるさと思いということになる。だが実態は、納税する自治体と何の絆もない人々が、高級な肉欲しさ、新鮮な魚欲しさに納税しているだけである。卑しさを全国に拡散しただけだ。このどこがふるさと納税なのか。