VWの車体骨格はどのように強度を出しているのか

日本の自動車作りの今(後篇)
2013.5.17(金) 両角 岳彦 follow フォロー help フォロー中
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日本の自動車製造の現場、特に最終組立ラインの現状を紹介しておこう。プリウスを組み立てるトヨタの堤工場の、2009年時点でのものだが、今もほとんど変わっていないと思う。右手前で車両下面に取りついている作業者が立つ黒い床面は、上の車両搬送コンベアと同期して移動する循環床になっていて、作業者もクルマとともに動いてゆく。前々回、紹介したフォルクスワーゲンの「ホール54」の情景と比較すると、いろいろ興味深い発見があると思う。(写真:トヨタ自動車)
スポット溶接。2枚(以上)の金属板を重ね合わせ、写真に見られるような棒状の電極で挟み込んで密着させてから大電流を流す。すると電極の間の金属がそれ自体の電気抵抗によって発熱し、局部的に溶け合って接合する。薄い鉄板の大量処理に適した溶接法であり、素材がアルミ合金になると電流の伝導が良く、熱伝導も良いため、発熱しにくくしかも熱が逃げやすいので、相当に大きな電力を投入しなければならない。(写真:Volvo Cars)
スポット溶接で車体を組み立てる情景を伝える写真で適当なものがなかなか見つからなかったので、トヨタのアメリカ・インディアナ工場のもの(2009年・ハイランダーの車体製造工程)を紹介しておく。車体骨格を「棟上げ」した後の工程で、ロボットが各方向から取りついて「増し打ち」をしているところ。車体前後それぞれで派手にスパーク(火花)が飛んでいるが、本文にも書いたようにこれはスポット溶接としては好ましくない。しかし「溶接の現場」という印象が強調されると、現地の広報担当者が選んでしまったものだろう。(写真:Toyota U.S.A.)
レーザー溶接の一例。レーザー発振器の中でもエネルギーの高い光線を出せるものを使い、そのビームを溶接部位に集中させて金属を溶かし合わせ、接合する。この写真のように、光ファイバーで導いたレーザー光をレンズを使って一点に集中させて直接当てて動かしてゆくものが多いが、最近は精度の高い動きができる鏡を使って、目標の部位に集光させつつ移動させる機構も使われている。ロボットアームの動きの精度も高いのできれいな直線の溶接痕が形作られている。(写真:Volvo Cars)
2012年末にフルモデルチェンジした現行クラウンの「ホワイトボディ」(車体組み立てを完了し、塗装前のボディシェル)。写真が小さいので見えないが、ピラー(柱)やドア開口部の内外パネルの合わせ目、床面などに小さな丸い溶接痕が無数に並んでいる。今日の乗用車の骨格は前面からと側面からの衝突対策をどう構築するかで構造体の形態が決まる部分が大きい。その視点で様々な新型車を見比べた中では、この車体の開口部まわりや柱の造形はやや華奢に見える。この形まで出来上がってしまうと見えないが、衝突試験の要求レベルが刻々と上がる中で、既存設計に継ぎ足しする手法では、補強板の重ね合わせなども多くなる一方で、それが重量を増やしている。(写真:トヨタ自動車)
ゴルフ7の骨格を製造するフォルクスワーゲン・ヴォルフスブルクの車体組立工場の一角。MQBを特徴づける内骨格を組み上げる前、各部のブロックをサブアッセンブリーする段階で、フロント~センターフロア部分の裏側(底面)の主骨格部分をレーザーで前から後ろまで連続して溶接している。この部分の組み立てだけでもいくつかのステーションが連なっていて、その中を部品がコンベアで移動して順次、接合部位を増やしてゆくことがこの写真からも分かる。(写真:Volkswagen AG)
現行クラウンの主要車体骨格の構造と素材を示す。高張力鋼の使用部位はグレーで示されているが、骨格材の継ぎ目などがほとんどなのが分かる。つまり小面積の補強板として重ね合わせてスポット留めする使い方である。トヨタはレーザー溶接を車体側面で大きな開口部を持つ外側面を一体でプレス成形する前に、小さく分けて切り出した部材を接ぎ合わせる「テーラード・ブランク」を作るのに使っているが、クラウンでは車室後面の隔壁を補強する接合にも使用。アルミ合金については、複雑な形状で剛性が高いほうがいい部位に使えば比重の軽さが活きるし、強度を受け持たない「フタもの」に使うのも軽量化につながる。しかし分解・分離を設計段階からしっかり考えておかないと、リサイクルが難しくなる。(図版:トヨタ自動車)
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スバル・フォレスターの基本骨格。富士重工は日本メーカーの中では高強度鋼板の導入に積極的だが、それでも高張力鋼板(980MPa級の冷間成形)の使用部位はまだまだ限られるし、接ぎ合わせる形の使い方をしている。高張力鋼板の導入時に「ハイテンを使うと軽くできる」という論旨を決め込んで取材した媒体への説明に、担当技術者が苦慮していたのを思い出す。(図版:富士重工業)
ゴルフ第7世代の基本骨格。紫色で示された部分がホットスタンプによる1000MPa超級、赤で示されているのが1000MPa級の超高張力鋼であり、黄色が高張力鋼、グレーが通常の軟鋼である。側面衝突に関する要求レベルが上がっているので、その衝撃を直接受けるセンターピラー、床左右を縦貫するサイドシル、そして前面衝突も含めて乗員の上体の生存空間を確保するためのフロントピラーからルーフレールなど、極めて強固な構造体である必要が高まり、超高張力鋼が使われる。高強度な素材は変形や破壊の限界を引き上げる部位に使う、という基本そのまま。同時に最近の欧州車(だけではないが)では、こうした素材を大きく深い断面かつきれいな曲面を持つ形状に成形して、それ自体で強度と剛性を高め、補強追加を不要にして軽量化する、という設計が具体的に行われている。特にセンターピラーとその基部はそれがよく分かるし、ゴルフ(とフォード・フォーカス)ではテーラー・ロールド・ブランクを採用、衝撃力が集中するドアラッチ(閉鎖機構)部を厚く、断面も大きくしている。(図版:Volkswagen AG)
こちらは現行オーリスの車体骨格。超高張力鋼板(赤)を導入したが、センターピラーにつながるサイドシルの外板のみ。車室を取り巻く骨格の高張力鋼板(水色)はもちろん強度を高めるためのものだが、ドアやボンネットフードの外板は板厚を薄くして軽量化とコストダウンを図りつつ、面としての張り(硬さ)は必要、という使い方である。フロントウインドウ下端を受ける車体面がエンジンルームの上に張り出しているのも分かる。ゴルフを筆頭に直接競合することになる最新の欧州車などの骨格と比較すると、素材の使い方だけでなく骨格設計の論理性や構造体としての美しさでも見劣りするのは否めない。(図版:トヨタ自動車)
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