「原材料やエネルギーのほぼ全てを輸入し、それらを使って良い製品を作り出し、世界に送り出す」。これが日本を世界有数の経済大国にまで成長させた原動力であり、そして今後もその循環が回り続けることが、少なくとも近い将来までは日本の産業と経済を支えてゆく、と誰もが漠然と信じてきた。
しかしその前提が足元から揺らぎ始めている。これも当分は、産業立国の中核であり続けるはずの自動車産業。その現状を少しでも踏み込んで観察すれば、その危機が実感として伝わってくるはずだ。その現状の一端を紹介する連載の後篇をお届けしよう。
自動車の「車体」をどう作るか。どんな素材を使って、どう成形・接合して「ボディシェル」(卵の殻のような骨格)を組み上げるか。この「クルマの土台」の作り方においても日本車の停滞は著しい。だからフォルクスワーゲン工場見学の中でも車体組立工場で見たものは、私の中に強い印象を残した、というところに話を進めよう。
もちろん今日の乗用車の車体は、基本的に「鋼板」で構築された箱、である。だから車体骨格の進化を読み解くには、どんな鋼板を(あるいは他の素材を)、どんな形にして、どの部位を形作り、それらをどのように接合して組み上げているか、を見てゆくことになる。その一方で、衝突安全性についての要求レベルは刻々と引き上げられていて、衝突部位では車体変形をコントロールしつつ潰すことでエネルギーを吸収し、一方で居住エリアを囲む骨格はできるだけ強固にして生存空間を確保する、という基本に沿った進化が続いている。しかしこれを既存設計に上乗せする形でやると、鋼板の板厚を上げ、弱い部位には「当て板」を重ねる、といった方策になるので、車体の重量が増える。もちろん「軽量化」は自動車にとって様々な性能向上に、特に今は燃料消費削減に直結する技術命題であって、様々な要求を満たしつつ、いかに軽い車体を作るかが、いつの時代も技術開発のテーマになっている。当たり前のことだが。
「点」でパネルをつなげるスポット溶接
薄板鋼板をプレス成形した大小のパネル部品を、溶接で組み上げる。これが今の量産乗用車の車体の作り方なので、ものづくりの現場では、まずプレス成形工程、そして溶接工程の2つを見ることになる。
日本車の場合、1980年代に確立された製造工程、つまり鋼板を常温で複数回のプレス成形を行ってパネル部品とし、それをスポット溶接で接合する、というやり方を今も使っている。
スポット溶接とは、2枚かそれ以上の鋼板を重ね合わせて棒状の電極で挟み、密着させた状態で大電流を流すと、電極間で通電された鋼板が高温になって溶接される、という工法。溶接された部位は丸い点状(ナゲットという)になる。これを次々に「打点」してゆくことで、パネル同士を接合する。
しばしば溶接工程の映像として、大きなクワガタの鋏のような溶接機(スポットガンという)が鋼板をくわえて溶接する瞬間に、オレンジ色の火花が飛び散る光景が紹介されるが、スポット溶接としては電極で金属板を挟んで通電した瞬間にその中で加熱・溶融が起こるべきもので、それがうまくゆけば通電の「ブーン」という音がした後、溶接機が離れると赤熱した丸い点が残るだけ、というプロセスになる。
電極の先端(チップ)が消耗したり、板同士がぴたりと密着しなかったりで微小な空隙があると、そこに放電が起こって火花が飛ぶ。だから火花が派手に飛び散った時は、そのスポットはうまく付いていないな、と見るのだし、そうならないようにチップ先端の手入れなどのケアが欠かせないのである。
この「点溶接」を並べるやり方に対して、放電を飛ばし続けたり、ガスの炎で加熱したりして、線を描くように連続した溶接を行う方法もある。この線溶接の方が昔ながらの手法であり、今の車体作りでも強固に付けたい部位には使われている。しかしある長さをずっと溶接してゆくのには時間がかかる。それをもっと速く進めたり、あるいは同時に複数の部位を溶接したい。しかも自動化したい、という要求から生まれたのが、スポット溶接なのではあった。
欧州メーカーはレーザー溶接を本格導入
これに対して最近(この10年あまり)は、線溶接でも自動化し精密な接合ができる手法が次々に出現している。その1つがレーザーを使うものであり、レーザー光の焦点の絞り方、それを溶接部位に精密に照射する技術などが進化したことと、それを精度高く動く工業用ロボットと組み合わせることで、自動車の車体の接合部を線状に長く溶接したり、円や曲線など複雑なパターンの溶接を短時間で進められるようになった。