「パニックは終わった」
4月上旬、ワシントンやニューヨークに出張し、数十名のアナリスト、エコノミスト、ファンドマネージャー等の市場関係者と意見交換をしてきた。その印象を総括すれば、この一言に尽きる。
金融機関の不良債権処理、自動車ビッグ3の経営再建・・・。政策担当者や市場関係者が冷静に現状を分析し、どこに問題があり、何をしなければならないかを共通認識として持っていることを強く感じた。
しかも、3月に入って株式市場がやや持ち直しに転じたことで、2月までの悲観ムードが後退し、経済・金融再生への道筋を建設的に考え始める余裕が生まれている。オバマ政権が次々と打ち出す経済政策に加え、国際通貨基金(IMF)やG20金融サミットなどの危機対応のための国際的枠組みが整いつつあることも、安心感の醸成に大きな役割を果たしている。
オバマ大統領は4月29日に就任100日を迎える。報道機関や議会が政権批判を控える「ハネムーン」は終了するが、矢継ぎ早に打ち出してきた政策によって、今のところ市場の期待を何とかコントロールすることに成功していると言っていいだろう。
しかし、経済が自律的な回復軌道に乗るには、まだまだ時間がかかる。そして、それまで市場の期待値を維持するには、後述する2つのリスクについて、何らかの回答が用意されることが必要である。
ガイトナー財務長官が3月下旬に発表した最大1兆ドルの官民合同基金構想について、市場関係者の多くは「考え方としては悪くない」と評価している。2月に基金の骨格が発表された際には、市場は政府出資による大型の不良債権買い取り機関の設置を期待していたため、失望を買って株価急落を招いた。だが、その後公表された条件は、投資家にとって「ガイトナーからの贈り物」と言えるほど有利な内容だった。
問題は、不良資産の売り手である銀行が、基金にどの程度参加するか。財務省は、大手19行に対して実施中の特別検査(ストレステスト)と追加資本注入プログラムを組み合わせ、売却推進の後押しをするつもりだろう。
政治リスク増大、投資家は二の足
ワシントンでは、公的資金を受けながら幹部社員に巨額の賞与を支給していた米保険大手アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)が、強い社会的批判にさらされた。
大統領までもが賞与の支給阻止を求める事態に発展し、投資家の間では企業経営に政治が介入する「政治的リスク」を危惧する声が上がっている。「贈り物」を受け取るつもりで基金へ参加しても、利益を得た後で高額の「請求書」が送りつけられる事態を恐れているのだ。米連邦準備理事会(FRB)が実施している資産担保証券融資制度(TALF)への応札が意外なほど低調なのも、そうした「政治的リスク」が背景にある。
一方、オバマ政権は投資家の不安を払拭し、最優先で基金を始動させなくてはならない。その第1ステップとして、5月4日に予定されるストレステストの結果公表に注目したい。