米・中・ロ・欧の「4極構造」への移行

1. 米国:欧州からの段階的退場と「対中」への戦略集中

 米国はウクライナ戦争を通じて、「欧州を守るコスト」と「得られる利益」の不均衡を痛感した。

● 欧州防衛は「割に合わない」

 NATOの防衛費負担では米国だけが突出し、欧州は軍事力を増強しないまま米国依存を続けているうえ、ウクライナ支援でも米議会の分断によって限界が露呈した。

 こうした現実を前に、米国は次第に「欧州を守っても得られる見返りはあまりに少ない」と悟り始めている。

● 戦略の重心は完全にインド太平洋へ

 中国の軍拡はかつてのソ連を上回る速度で進み、台湾・南シナ海・第1列島線は米国にとって「戦略的な最終防衛線」となっている。

 こうした状況下で、米国は日本・豪州・フィリピンといった同盟国との連携を最優先課題とし、欧州には「最低限の関与」を残しながら、主戦場をインド太平洋へと本格的にシフトさせている。

● 欧州は「守られる前提」を失う

 米国の退場は、欧州にとって「安全保障の真空」を意味する。これが後述する「欧州の分裂」を加速させる。

2. ロシア:弱体化しても「地政学的勝者」として居座る

 ロシアは軍事的には疲弊した。しかし、地政学的には「居座ること」そのものが勝利となる。

● 停戦ライン=新たな「鉄のカーテン」

 ロシアは占領地の一部を保持し、いわば「ウクライナ版の38度線」を固定化することでウクライナのNATO加盟を阻み、欧州の安全保障を半永久的に不安定化させることができる。

 ロシアにとって重要なのは「勝つ」ことではない。「負けない」だけで欧州を分断し、次の局面を自らに有利に導けるのである。

● 欧州の分裂を戦略資産化

 東欧は対ロ強硬の姿勢を崩さない一方で、ドイツ・フランス・イタリアは経済を優先して対ロ融和に傾き、ギリシャやスペインなどは中国資本への依存を深め対ロ安全保障への関心が薄れていく。

 ロシアはこの「脅威認識のズレ」をてこに、欧州の結束を内側から侵食し、次の局面を自らに有利な形へと静かに誘導していく。

● 弱っても消えない「地政学の重さ」

 ロシアは国内総生産(GDP)では、国際通貨基金=IMF(世界経済見通し)の名目GDP推計で2兆ドル台・10位前後の規模にとどまるが、核兵器、豊富な資源、地理的要衝、そして情報戦能力という4つの要素が、その存在に「永続的な影響力」を与えている。

 これらは軍事・経済・地政学・認知領域のすべてでロシアを消し去ることを不可能にし、国力の弱体化とは裏腹に、国際政治における重石としての役割を維持させている。

3. 中国:分裂した欧州への静かな浸透

 中国は欧州を「一枚岩」と見ていない。むしろ、分裂した欧州こそが中国にとって理想的な環境である。

● 経済依存をテコにした「静かな浸透」

 ドイツでは自動車産業が中国市場に深く依存し、南欧では港湾やインフラが中国資本が影響力を強めつつあり、中欧は一帯一路の玄関口として取り込まれている。

 中国はこうした経済的結びつきを巧みに利用し、欧州を「経済で縛る」ことで、対中で足並みを揃えようとする欧州内部の結束を、内側から静かに崩していく。

● 欧州が「対中でまとまれない」ことを前提にした長期戦略

 欧州議会は対中強硬だが、ドイツとフランスは経済を優先し、東欧は中国への警戒を強め、南欧は中国資本への依存を深めている。

 こうした「バラバラの欧州」は中国にとって極めて扱いやすく、その分裂こそが中国の得意とする「ディバイド・アンド・ルール(Divide and rule)=分割して統治せよ」の土壌となっている。

4. 欧州――統合体から「勢力圏の寄せ木細工」へ

 EUは理念としては強固だが、安全保障の現実に直面すると、国家ごとの利害が露骨に表面化する。

● 共通の敵を失った欧州

 冷戦期にはソ連という明確な脅威が存在したが、ポスト冷戦ではその脅威が急速に曖昧化し、そしてウクライナ戦争の停戦後には、脅威認識そのものが国家ごとに分裂していく。

● 欧州は「複数の小さな極」に分かれる

 北欧は対ロ強硬でNATOと一体化し、東欧はロシアを最大の脅威とみなして独自の防衛軸を固める。

 ドイツ圏は経済を最優先し、中国依存を抱えたまま安全保障で曖昧な立場にとどまり、南欧は中国資本とロシア資源への依存を深める構造にある。

 フランス圏は欧州の戦略自立を掲げ、独自の安全保障圏を形成しようとしている。

 こうして欧州は、かつての一枚岩から離れ、「寄せ木細工の勢力圏」へと静かに変質するとみられる。
 
4極構造の本質:「誰も世界を支配できない世界」

 米国は世界を管理しきれず、中国は覇権を握るには脆弱すぎる。ロシアは弱体化しても地政学的に消えず、欧州は統合の意思と能力を欠く。

 こうして世界は、いずれの大国も主導権を握れない「混沌の4極構造」へと移行していく。

 この構造は、競争、分断、代理戦争、経済ブロック化、そして情報戦の激化を常態化させる。
 
まとめ:日本は「どの極にも飲み込まれず、すべてを利用する」戦略へ

 4極構造の時代、日本が取るべきは「自立した同盟国」という新たな立ち位置である。

 米国とは安全保障で連携し、欧州とは技術と経済で協力し、中国とは依存を抑えつつ管理し、ロシアとは「距離を保った現実主義」を貫く。

 そして何より、日本自身が一つの極として振る舞う覚悟――自らの利益を軸に世界を読み解く主体性――が求められる。