大西が生んだ超越的なビジュアル
《題不詳》1950-60年代 ©Estate of Shigeru Onishi, courtesy of MEM
時代は高度成長期が始まりつつあった1950年代。当時の写真のメインストリームといえばリアリズムとジャーナリズムだ。社会のリアルな姿を克明に写し出し、同時にその背後に潜む悪を暴き出す。写真に抽象的、幻想的といった要素は必要なかった。
だが、そんな時代に大西は我が道を行く。被写体の題材は決して奇異なものではない。街や室内の情景、女性のポートレート、あるいはヌード、生い茂る樹木……など。だが、その撮り方と現像・プリントの手法が未知のものであった。多重露光や多重焼付により様々なイメージをモンタージュ。プリントも現像液をスポンジや刷毛で不均一に塗り付けて意識的にむらを起こし、氷酢酸で変色させた。現像液の温度も、20℃前後が一般的といわれるが、大西は8℃から80℃まで変化をつけて現像を行っている。
こうした我流のテクニックを用いることで、どんな写真ができあがるのか。写真には思ってもみなかった錯綜したイメージが現れた。これこそが大西の狙い。現像むらや変色といった偶然的要素を導入することで、写真には「数学」では計算できない、超越したビジュアルが浮かび上がったのだ。
では、大西が作り出したビジュアルは、芸術として成り立っているのだろうか。写真の概念を根本から覆すような荒々しい表現は、ある意味、とても純粋だ。計算されていない、手つかずの自然的な造形や詩情があるようにも感じる。それを「美しい」と思うか、「グロテスク」と感じるかは鑑賞者の感性次第だろう。
フィルムの可能性は今後も広がる
《対應》1957年頃 ©Estate of Shigeru Onishi, courtesy of MEM
展覧会で大西茂の作品を見て、写真家のスティーブン・ギルを連想した。彼は1971年にイギリスで生まれた写真家で、世界的にファンを獲得し、昨年東京で開催された写真芸術の祭典「T3 PHOTO FESTIVAL TOKYO」にも来日している。
スティーブン・ギルの魅力は、実験精神にあふれたユニークな作品群。道ばたのアリや落葉をカメラのボディに入れて撮影したり、エナジードリンクを現像液に用いたり。自由な発想で制作された写真作品には、幻想的でいて言葉にしがたいみずみずしさが湛えられている。
そんなスティーブン・ギルが生まれてもいない1950年代に、すごいことをやっていた日本人。写真の主軸が「デジタル」になって久しいが、大西茂が再評価され、彼の世界に何かを感じる人が増えれば、「フィルムカメラ」の可能性はまだまだ広がっていくだろう。
「大西茂 写真と絵画」
会期:開催中~2026年3月29日(日)
会場:東京ステーションギャラリー
開館時間:10:00~18:00(毎週金曜日は〜20:00)※入館は閉館の30分前まで
休館日:月曜日(ただし2月23日、3月23日は開館)、2月24日
お問い合わせ:03-3212-2485
https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202601_onishi.html



