日本企業が取るべき道筋
では、日本企業はどうすれば良いのだろうか。米国型の「AIリストラ」をそのまま導入することは、制度的にも文化的にも現実的ではない。しかし、何もしなければ競争力は確実に低下する。必要なのは、日本の雇用慣行を前提とした「日本型AI活用モデル」の構築だ。
第1に、解雇を前提としないAI活用モデルを構築すべきだ。人員削減ではなく、AI導入で生まれた余力を高付加価値業務へシフトさせる。たとえば、定型業務をAIに任せ、社員には顧客との関係構築や新規事業開発に注力させるのである。
実際、日本のいくつかの金融機関で、支店業務を「事務」から「相談」へとシフトさせるという取り組みが見られる。これはAIによる人員削減ではなく、AIと人間の協働による新たな価値創出のモデルだ。
第2に、経営層のコミットメントと現場への権限委譲が必要だ。トップダウンでAI導入の戦略的重要性を明確にしつつ、同時に現場の若手に実験的プロジェクトの権限を与える。失敗を許容する文化を醸成し、小さく始めて成功体験を積み重ねるのである。
DeNAの南場智子会長は、AI活用による効率化により「現業の人員を半分に減らし、残る半分を新規事業に充てる『ユニコーン量産』目標」を掲げており、「AIに全賭けする」という姿勢を明確にした。こうした経営トップの強いコミットメントが、組織全体の変革を駆動する。
第3に取り組むべきは、AI人材の育成とリスキリングへの投資だ。外部からの高額採用だけでなく、既存社員のリスキリングに本気で取り組む必要がある。「社員全員がAI専門家になる必要はないが、全員がAIを使いこなせる必要がある」という認識のもと、段階的・実践的な教育プログラムを展開すべきだ。
たとえば、パナソニックコネクト株式会社は、パナソニックグループのプレスリリースにおいて、「2023年2月より生成AIの業務利用を「(1)業務生産性向上、(2)社員のAIスキル向上、(3)シャドーAI利用リスクの軽減」の3つの目標を掲げて開始し、国内全社員約11,600人にAI活用を推進」してきたと説明している。
その結果、「2024年のAI活用による業務時間削減効果は44.8万時間に達し、多くの社員の生産性向上に大きく貢献」したそうだ。
同社はこの成果について、社員のAI活用スキルが向上し、活用方法が「聞く」から「頼む」へシフトしたことを一因として挙げている。社員全員がAIユーザーとなる生成AI・AIエージェント時代には、こうした大規模で積極的なリスキリング施策が欠かせない。
日本型AI活用モデルの可能性
日米の雇用慣行の違いは、日本企業にデメリットしかもたらさないというわけでは決してない。終身雇用を前提とした長期的な人材育成は、かつて日本企業の強みだった。AI時代においても、この強みを活かした独自のモデルを構築できる可能性がある。
重要なのは、米国型をそのまま真似するのでも、何もせず現状維持するのでもなく、日本の実情に合わせたAI活用の第3の道を模索することだ。解雇を前提とせず、既存社員の能力を最大化しながら、AIとの協働で新たな価値を創出する──。このモデルが確立できれば、日本企業は再び世界で競争力を発揮できるだろう。
そのためには、今すぐ動き出す必要がある。スタンフォード大学のレポートが示す世界の現実は、我々に躊躇している時間はないことを告げている。来年2026年は、日本企業にとってAI活用でトップに立つ最後のチャンスになるかもしれない。より多くの日本企業が、AIによる競争力の回復に取り組むことを期待したい。
小林 啓倫(こばやし・あきひと)
経営コンサルタント。1973年東京都生まれ。獨協大学卒、筑波大学大学院修士課程修了。
システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にてMBAを取得。その後コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業、大手メーカー等で先端テクノロジーを活用した事業開発に取り組む。著書に『FinTechが変える! 金融×テクノロジーが生み出す新たなビジネス』『ドローン・ビジネスの衝撃』『IoTビジネスモデル革命』(朝日新聞出版)、訳書に『ソーシャル物理学』(草思社)、『データ・アナリティクス3.0』(日経BP)、『情報セキュリティの敗北史』(白揚社)など多数。先端テクノロジーのビジネス活用に関するセミナーも多数手がける。
Twitter: @akihito
Facebook: http://www.facebook.com/akihito.kobayashi
