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(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年10月20日付)

金の価格高騰が止まらない(10月13日、写真:ロイター/アフロ)

 世界の市場で奇妙なツイストが繰り広げられている。

 金(ゴールド)がまるで1979年かのようにパーティーに興じ、株式がまるで1999年かのように浮かれ騒いでいる。

 だが、2つの時代はこれ以上ないほど異なっていた。

 前者は手の付けられないインフレと地政学的な混乱の時代だったのに対し、後者はドットコム狂騒曲と相対的な落ち着きの時代だった。

 大半のアナリストは、新たな株式ブームの真っただ中で金が高騰しているのは、投資家が特に米国での政策の不確実性の高まりに対するヘッジを求めているためだと考えている。

 しかし、この説は人工知能(AI)主導の米国株への楽観論と金と関連した慎重な態度の両方を完全に受け入れることでグローバルな投資家が認知的不協和への驚異的な寛容さを持つことを暗示している。

 また、これはただひたすら不可解な選択肢にも思える。

 より直接的な形の保護(例えば株式のプットオプションの購入など)が比較的安価な時に、なぜ金でヘッジするのか。

市場に滞留している膨大な流動性

 金と株式のデュエットには別の説明があると筆者は考えている。ふんだんにある流動性がそれだ。

 新型コロナウイルスのパンデミックの最中とパンデミック後に、世界各国の政府と中央銀行は景気刺激策で数兆ドルの資金を市場に注入した。

 その大半はまだ金融システム内に滞留しており、株式と金を含む多くの資産のモメンタム取引(相場の勢いに乗った売買)の原動力となっている。

 この流動性を背景に、米国人が短期金融市場のミューチュアルファンドに預けている資金が今や合計7.5兆ドルに達し、長期トレンドを1.5兆ドルも上回る水準をつけている。

 米連邦準備理事会(FRB)は金融政策が「やや引き締め型」だと説明しているものの、事実を言えば名目金利はまだ名目国内総生産(GDP)の成長率を下回っており、おかげで金融緩和状態が続いている。

 政府も一定の役割を果たしている。その筆頭格が、先進国世界で最大の赤字を計上してしる米国だ。

 莫大な財政赤字の裏側が、民間部門の莫大な黒字だ(この点については経済学者のミハウ・カレツキの概念に基づきレビ経済研究所が組み立てた方程式が示す通りだ)。