銀価格もついに最高値を更新。写真はイメージ(写真:Oselote/Shutterstock.com)
目次

今世紀に入り、原油や穀物、銅などの非鉄金属、金、プラチナといった主要なコモディティー(商品)が史上最高値を更新した。その中で唯一、更新できなかったのが1980年に記録した銀の高値だ。その銀価格が10月14日に1トロイオンス(約31.1グラム)53ドル台の高値を付け、とうとう45年前の高値を塗り替えた。世界経済の不確実性が高かる中で、投資マネーが金のみならず銀にもなだれ込んでいる。

(志田 富雄:経済コラムニスト)

主要商品で唯一、20世紀の最高値が生き残った銀

 1980年に記録した銀の高値は52ドル台とされる。「〜される」と書いたのは、商品価格は常に一つでなく、現物や取引所ごとの先物の期近、中心限月、原油は油種によっても価格が違うからだ。ただ、今回の銀価格は現物市場で53ドル台まで上昇しており、80年の高値を超えたのは間違いない。

 銀相場は2010〜11年にも高騰したことがあった。11年に先物で1900ドル超の最高値を記録した金に比べ、銀には割安感があり、そこに投資家が目をつけた。2006年に登場した銀ETFの残高は鉱山生産量の6割に相当する1万5000トン規模に拡大、このETFなどを通して投資マネーが一斉に銀市場に流入した。

出所:田中貴金属工業資料をもとに筆者作成

 ところが、商品取引所が相場高騰に対応して取引証拠金を次々と引き上げたこともあり、相場は50ドルの一歩手前で急落に転じた。商品取引所が証拠金を引き上げるのは市場参加者の過大な損失を防ぐのが狙いだが、結果として過熱した市場を冷ます効果がある。

 1980年に記録した高値も米国のハント兄弟の買い占めが生んだ異常値であり、難攻不落に見えた。それが主要商品で唯一、20世紀の最高値が生き残った理由だ。

 ハント兄弟、すなわちネルソン・バンカー・ハントとウィリアム・ハーバート・ハントの2人は石油採掘で財を成した一家に生まれた。1979年、兄弟はその財を元手に当時のニューヨーク商品取引所(COMEX、現在はシカゴ・マーカンタイル取引所=CMEグループ)やシカゴ商品取引所(CBOT、同)などで銀を買いまくった。先物と現物市場を合わせ、6000トン以上の銀を買ったとの説もある。

 兄弟は、銀価格は安すぎる水準に放置されており、金との対比(金銀比価=金価格を銀価格で割った数値)で5倍程度になるべきだと考えていた。金銀比価が一時100倍を超えた現在の金高騰を見たらどう思うだろうか。