4度目となる米朝トップの直接会談は実現するか(写真は2019年6月30日、南北軍事境界線にある板門店で握手するトランプ大統領と金正恩総書記=AP/アフロ)
トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩総書記が年内の直接会談を模索している。その背景には、中国・ロシア・北朝鮮の“新三国同盟”の結成とも言える流れを受け、米朝双方で旧来の交渉チームが再結集している事実がある。非核化や拉致問題の解決など数々の課題が残る中、米朝再接近の狙いとその行方について、ジャーナリストの松本方哉氏がレポートする。
世界に衝撃を与えた“新三国同盟”の発足
2025年9月3日、第2次世界大戦で日本が降伏文書に署名した日の翌日を「抗日戦争勝利記念日」と定める中国の北京で、終戦80周年を記念する軍事パレードが開催された。
当日は習近平国家主席のもとに、ロシアのプーチン大統領と北朝鮮の金正恩総書記が顔をそろえた。中国、ロシア、北朝鮮の首脳が一堂に会するのは冷戦終結後初めてである。北東アジアにおける、いわば新たな“三国同盟”の発足は、これまでの世界秩序を大きく揺るがしかねず、国際社会に衝撃を与えた。
2025年9月3日、第2次世界大戦終結80周年記念レセプション(中国・北京)で顔をそろえた中国の習近平国家主席(中央)、ロシアのプーチン大統領(左)、北朝鮮の金正恩総書記(右)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
現在、核保有国は9カ国あるが、このうち4カ国(北朝鮮、インド、パキスタン、イスラエル)は、NPT(核兵器不拡散条約)に加盟しないまま、核兵器を保有ないしは保有が確実視されている状況であり、中国、ロシアを含めれば、アジア地域は核の密集地帯となっている。
金正恩氏にとって、今回の北京訪問は国際社会に影響力を持つ核保有国の指導者たちと対等な立場で肩を並べる初の重要な国際イベントとなったが、それ以外にも二つの点で特徴的だった。
一つは、10代の愛娘、金主愛(キム・ジュエ)氏を国際デビューさせたことだ。
歓迎式典が行われた北京駅で、金正恩氏を先頭に、崔善姫(チェ・ソンヒ)外相に保護されるような形で列車から降り立った主愛氏は、中国側高官たちの大きな拍手の中、初の海外渡航にもかかわらず、物おじしない笑顔を周囲に振りまいた。
2025年9月2日、北京に到着し、中国共産党の幹部らから出迎えを受ける北朝鮮の金正恩総書記(中央右)と金主愛氏とされる娘(右から3人目)(中国・北京、写真:AFP=時事)
2020年11月のICBM(大陸間弾道ミサイル)発射実験以来、軍事関連イベントなどに度々姿を見せていた彼女の今回の国際デビューは、金正恩氏の後継者としてのお披露目を意味するとの認識を国際社会にもたらす動きとなった。
もう一つの大きな動きは、金正恩氏の妹である金与正(キム・ヨジョン)党副部長が、北京で兄を補佐しながら活発に動く姿を見せたことである。
金正恩氏とプーチン大統領が同乗したリムジンに滑り込む様子も映像で確認され、車内では両首脳と向かい合う座席に座っていた。この時の両首脳の談笑映像に与正氏の姿は映っていないが、与正氏の隣に座った北朝鮮側カメラマンが撮影したものであり、露朝首脳の様子は、車中の与正氏の視点から捉えられた光景と思われる。
今回の北京訪問で与正氏は、ほかにも何度か書類や鞄を手に金正恩氏の近くに寄り添う姿が目撃されている。一時動静が伝えられなかった与正氏の完全復活を示すものと言える。金主愛氏が正式な後継者として成長するまでの間、金正恩氏に万が一の事態があった際に、暫定的に最高権力者の職務を代行・補佐する「摂政役」になる可能性が強まったと感じさせる動きでもあった。
北京で開かれた記念レセプションに参加する北朝鮮の金与正朝鮮労働党副部長(中国・北京、写真:AFP=時事)