サッポロ不動産開発が手がける商業施設「恵比寿ガーデンプレイス」。売却の行方が注目されている(写真:共同通信社)
(牧野 知弘:オラガ総研代表、不動産事業プロデューサー)
地価高騰を「狂乱」と報じないメディアの懐事情
日本の大企業の多くは都心部に優良な不動産を多数抱えてきた。時代の変化に伴って大企業にとっての事業環境も変わり、本業の収益だけで稼ぐのが厳しい時代を迎えても、自社が抱える不動産を活用して不動産収入を得ることによって、本業の減退を補っているケースは多い。
古くは繊維業。戦前は日本の代表的な産業のひとつだった繊維業は、アジア諸国などの攻勢によって衰退。今では多くの会社が自社のあった都心部の本社ビルや郊外にあった工場跡地を有効利用することで、不動産賃貸業に業態転換している。
不動産は金融機関から融資を受ける際に担保としての価値を持つだけでなく、有効活用を行うことで新たな収益源を発掘する打ち出の小槌としての役割も果たしてきたのである。
新聞、ラジオ、テレビ、出版などのメディアも、SNSの隆盛に伴い、それまで誇ってきた情報発信における圧倒的地位を落とし始めて久しい。そのいっぽうで、彼らの多くは都心部に広大な不動産を保有している。その不動産を活用してオフィスビルなどを建築し、今や不動産収益が本業収益を超えるところも珍しくなくなっている。
あるメディアの首脳はこうした状況について「自社の収益を下支えする不動産事業があるからこそ、安心して本業に打ち込める」と説明する。一見するともっともらしい理屈だが、見方を変えれば、今や不動産収益がなければ本業の存続が危ぶまれるとも受け取れる。
さらに、不動産収益が会社の事業を支えるのであれば、メディアは高騰する不動産価格に対して、この状況を一般市民に正確に伝え、あるべき姿を議論しようとするだろうか。
平成バブルと言われた1990年代初期。メディアは不動産価格の高騰について「地価狂乱」という見出しを大々的に掲げていた。今こそ地価を下げるべきだ、人為的に下げたとしても好調を続ける日本経済に何らの影響もない、とキャンペーンを張った。
ところが現在はどうであろうか。平成バブル時には東京銀座の公示地価が坪あたり1億円になったことに対して「狂乱」としていたものが、今年発表の同地の公示地価は坪2億円である。狂乱が収まらない、あるいは再び「狂乱」になったと報道してもおかしくないはずだが、多くのメディアはこの事実に対して「だんまり」を決め込んでいるように映る。
穿った見方をすれば、自分たちの収益を支える不動産マーケットに対してペンが鈍ってしまっていると思われても仕方がないのではないだろうか。