一部区間では太平洋を望む絶景のなかを走るDMV。世界初の乗り物の成功例として今後も走り続けてほしい
(山﨑 友也:鉄道写真家)
2011年に始まったDMVの実証実験
世界で唯一無二の乗り物が四国の東岸を走っている。それが阿佐海岸鉄道のDMVだ。初めて聞く人も多いかと思うがDMVとはDual Mode Vehicle(デュアル・モード・ビークル)の略で、線路も道路も両方走ることができる夢の乗り物なのである。
運行している阿佐海岸鉄道は、徳島県の阿佐海南と高知県の甲浦を結ぶ第三セクターだ。どうしてこの地方ローカル線にDMVが走っているのか、まずは阿佐海岸鉄道の歴史からみてみよう。
旧国鉄は、徳島県の牟岐から高知県の後免までを結ぶ阿佐線を計画していた。1973年に牟岐~海部間が完成し、牟岐線として開業したものの、その後旧国鉄の経営悪化により工事は凍結してしまう。ただ徳島県側の海部~甲浦間ではレールの敷設が一部完了していたなど構造物がほぼ出来上がっていたため、沿線自治体が残りの部分を整備して鉄道の運営を決めることに。こうして1992年に阿佐海岸鉄道が誕生する。ちなみに牟岐~海部間はJR四国が旧国鉄から受け継いだほか、高知県側の後免~奈半利間は土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線として2002年に開業したが、残る甲浦~奈半利間は現在も未成線のままである。
さて、開業当初こそ阿佐海岸鉄道の利用客は年間17万人を超えていたが、地域内の人口減少や高齢化などにより、その後どんどんと減っていき、2010年にはその1/4以下となる3.8万人となってしまった。さすがにこれではという危機感から、JR四国と協力するなど利用促進に努めた結果、翌年からわずかではあるが利用客は増加している。その一助となったのが2011年に始まったDMVの実証実験だ。
DMVはもともとJR北海道が試作車を完成させ、2007年4月から釧網本線で試験的に営業運行を開始したのが始まりだ。国交省からも本格的な営業運行に向けて一定の評価は得ていたのだが、社内的な事情などからJR北海道はDMVの開発を2014年に中断することを発表する。その経緯もあり、開業時からの基金も底をつきかけており、現状をなんとか変えようとしていた阿佐海岸鉄道は、阿佐東線DMV導入協議会を2016年に設立し、従来の鉄道車両による運行という発想を転換し、DMV導入に本格的に舵を切る。
線路を走るときにはゴムタイヤの前後に鉄車輪が出て、後輪のゴムタイヤで駆動する
道路を走るときは普通のボンネットタイプのマイクロバスと変わりない。ベース車はトヨタのコースターだ
DMVは線路も道路も走れる画期的な乗り物であるためそれ自体が観光資源となる。また、大規模災害発生時の交通機能の維持も有効なほか、車両そのものはマイクロバスなので身の丈に合った地域公共交通が支えられるのではないかという判断からだ。
途中新型コロナウイルスの影響や工事の遅れなどもあったが、2021年12月25日、晴れて世界初のDMVによる営業運行がスタートしたのである。