(英フィナンシャル・タイムズ紙 2025年8月22日付)
プーチン氏とのツーショット写真を自慢げに見せるトランプ大統領(8月22日、写真:ロイター/アフロ)
ロシアのウラジーミル・プーチンにへつらうドナルド・トランプの姿を踏まえるなら、欧州連合(EU)が米国によるウクライナ支援停止を恐れるあまり7月の関税交渉で自由貿易の原則を曲げたことは、最も賢明な策ではなかった。
1970年代にニューヨークの建設・不動産業界にいた人たちなら教えてくれたように、トランプは約束を守らないからだ。
今では、トランプが(自分の個人財産の問題は完全に無視して)税収を得るために貿易相手国や企業にたかる恐喝は、まるでマフィアのボスか、発展途上国の縁故資本主義の独裁者だと指摘するのが一般的になっている。
実際、あのたかりはもっとたちが悪い。
トランプ政権の政策はマフィアのゆすり
優秀なマフィアのボスや有能な独裁者は、収奪するかもしれないが予測可能だ。
これに対し、トランプが米財務省の名前で企業や政府に行っている強盗行為は気まぐれだ。
関税をかけられたくなければ投資しろとスイスに要求したとの報道や、半導体メーカーのエヌビディアとアドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)に中国向け半導体の売上高の15%を上納する仕組みを突然設けたことを考えてみるといいだろう。
このようにして生じる不確実性は、ビジネスと貿易の基礎全体を脆弱にする。
トランプが関税交渉で差し出した利益は、実現されなかったり、合意締結からほどなくもめ事になったりする場合が多い。
5月に合意したみかじめ料相当額をほかの国々に先駆けて支払った英国は、鉄鋼の輸出の一部に関税をかけないという利益の一部をまだ手に入れていない。
7月に成立した日本との合意でも、投資と輸入税をめぐる取り決めで争いが生じ、合意はあっというまに不確実性の霧の中に突入した。
EUは、トランプが何を望んでいるのか分からないと不満を漏らし続けた。彼の要求に一貫性があると決めてかかるのは間違いなのだ。