そもそも企業は何のために存在するのか。

 企業の存在意義を株主価値最大化に求めるような議論もあるが、それはビジネスの現実を知らない、極めて矮小化した考え方だろう。株主価値を最大化するためだけに、あれだけの貴重な人的資源や天然資源を投下して事業活動を行うはずがない。

企業の存在意義は何か

 企業の存在意義は、価値を創造することにある。創造した価値の対価が利益であり、継続して価値を創造し続けるために利益が必要であるに過ぎない。

 そしてここで言う価値とは、企業価値や株主価値といった数字の上での価値ではなく、上述した人の幸せを意味する。すなわち企業の存在意義は、人の幸せという価値を創造することにある。

 企業の存在意義は人の幸せという価値を創造することにあるという考え方は、グローバルスタンダードからかけ離れた考えではないかと思う人もいるだろう。実際、現代の日本の諸制度は、グローバルスタンダードという名の下に、株主の利益ばかりが重視されてしまっている。

 しかし世界的に見ても、これほど株主の権利が強化されている国は珍しい。株主の権利をこれほどまでに強化し、企業をあたかも商品のように自由な売買の対象とし、企業を短期的な利益の最大化に翻弄させることが、どのような意味を持つのかを十分に議論されないまま、様々な制度設計がなされてしまったのは大変残念なことである。

 この点については、あるべき制度設計についての話の際にまた触れたいと思う。

 繰り返すが、企業の存在意義は人の幸せという価値を創造することにある。そして会計の役割は、この価値創造プロセスを、お金の動きに着目して記録し報告することである。

企業の価値創造プロセスと会計

 企業は様々な活動を行っているが、企業活動は大きく分ければ3種類しかない。

 それは、資金を調達し、資金を投資し、資金を回収する、という3種類である。中小零細の企業でも、国際的な大企業でも、基本的に変わりはない。

 資金の調達とは、株主や銀行などから資金を集める行為である。この調達取引を、会計上は資金がどれだけ増加したかという「結果」と、その資金はどこから調達したのかという「原因」という2つの側面から捉え、原因と結果の2つを同時に記録する。

 具体的には、1000万円の資金を銀行借り入れによって調達した場合、1000万円の現金を貸借対照表の左側にある資産の部に、1000万円の借入金を貸借対照表の右側にある負債の部に計上する。

 これにより、現金の残高を資産の部で把握することができると同時に、その調達元を負債の部で把握し、かつその負債を将来返済しなければならないという義務を負債の部で把握することができるのである。

 資金の投資とは、調達した資金を使って価値を創造する行為である。

 社員に給料を支払うのも、光熱費を支払うのも、研究開発をするのも、パソコンなどの備品を購入するのも、工場を建設するのも、すべては価値を創造するためである。価値創造に役立たないことに貴重な資金を投下してはならない。

 この資金の投資において、会計上は、貸借対照表の左側の資産の部にある現金が、他の資産や費用に姿を変えていく。例えば社員に給料を100万円支払った場合、貸借対照表の資産の部にある現金が100万円減少し、損益計算書の左側の費用の部にある給料が100万円増加する。貸借対照表の左側にある現金が、損益計算書の左側にある給料に姿を変えたのである。

 この会計処理は、資金の投資においてはすべて共通している。例えば備品を200万円購入した場合、貸借対照表の資産の部にある現金が200万円減少し、同じく貸借対照表の左側の資産の部にある備品が200万円増加する。貸借対照表の左側にある現金が、同じく貸借対照表の左側にある費用に姿を変えたのである。

 そしてこの備品は、減価償却という手続きを通じて、徐々に費用に姿を変えていく。話を単純にするため仮に5年で均等償却した場合、毎期40万円ずつ、貸借対照表の資産の部にある備品が40万円減少し、損益計算書の左側の費用の部にある減価償却費が40万円増加する。貸借対照表の左側にある備品が、損益計算書の左側にある減価償却費に姿を変えたのである。

 資金の回収とは創造した価値が付加された商品やサービスを顧客に提供し、その対価としてお金を頂戴することで、投下した資金を回収することである。