マンションの大規模修繕工事は「談合し放題」?(写真:共同通信社)
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首都圏のマンションで施工会社の社員が住民になりすまして、大規模修繕委員会に入り込むという事件が発生した。同社員は「住居侵入」の容疑で逮捕されたが、20年間、悪徳業者と戦い続けてきたマンション管理士の重松秀士氏は「本件は氷山の一角で大規模修繕工事の実態は『談合だらけ』」と語る。さらに「素人は『騙し放題』で工事費は適正価格から20〜30%ほど高いのが常」というのだ。どういうことか。

(湯浅大輝:フリージャーナリスト)

「なりすまし」の施工会社は業界では有名な存在

──大規模修繕委員会に施工会社の社員が住民になりすまして、自社の工事受注につなげようとした事件が話題です。国家資格のマンション管理士として「カモ」にされがちな素人のマンション管理組合を悪徳業者から守ってきた重松さんは、本件をどのように見ていますか。

重松秀士氏(以下、敬称略):実は今回「なりすました」施工会社は、業界では有名な悪徳会社で多くの人は知っています。もともと大阪府に本社がある施工会社(以下「A社」)で10年ほど前から首都圏に進出し始め、ここ数年では活発に活動しているようです。

 実際、私が管理をお手伝いする首都圏のマンションの公募にも応募してきたことがあります。

 この企業の手口を説明しましょう。まずA社はマンションの一室(場合によっては複数)を社員の名義で購入し、区分所有者になります。その後、管理組合の理事や修繕委員会の委員に立候補して就任し、自社に有利になるような工事を仕組む、という流れです。

 多くの区分所有者は、責任が重いと感じる理事や委員にはなりたくないので、積極的に手を挙げる人に対して感謝・歓迎することはあっても、疑うことはほどんどありません。

重松 秀士(しげまつ ひでお)重松マンション管理事務所会長        重松マンション管理士事務所の創業者であり会長、マンション管理士。建築関連会社を経て2003年2月にマンション管理士として独立。2005年2月から2006年10月まで、財団法人マンション管理センターで嘱託社員として「マンションみらいネット」の立ち上げや「標準管理規約」第22条に対応する「開口部細則」の制定に従事。プロナーズ(マンション管理士プロフェッショナルパートナーズ)の立ち上げにも参加。

 ただA社は昨今、一等地のタワマンなど多額の資金が必要な物件まで購入しており、キャッシュが不足していたのでしょう。そのため、今回ターゲットになったマンションの一室を購入することができず、「なりすまし」という露骨な手段に出たのだと思われます。

──一般に、大規模修繕工事はマンションの管理会社、あるいは管理組合から委託を受けた設計事務所が、調査・診断、修繕仕様の作成などのコンサルティングをしながら、大規模修繕工事の施工会社を決めていく流れにあると言われています。施工会社は、どのようにして「自社に有利な条件」を引き出すのでしょう?

(次ページで「談合」のスキームを図解しています)