トランプ大統領は日本に25%の関税率を通告した(写真:AP/アフロ)
目次

(土田 陽介:三菱UFJリサーチ&コンサルティング・主任研究員)


 日本や韓国などに対して、米トランプ政権は25%(ベース関税10%+追加関税15%)の輸入関税を課すとともに、その適用を8月1日まで延期すると一方的に通告した。これは実質的な交渉の延長を意味するもので、大方の予想通りの展開となっている。同時に、交渉が煮詰まっているため、米国が焦っていることがよく読み取れる。

 米国との間で関税交渉が成立したのは中国、英国、それにベトナムの3カ国だけ。言い換えれば、90日間の交渉期限の中で、ほとんどの国と関税交渉は成立しなかったことになる。もともと米国が独善的に仕掛けた関税紛争なので、交渉が停滞するのは当然だ。目先の利害を優先せず、一種の牛歩戦術を採っている日本はある意味で正しい。

 その後もトランプ政権は通商拡大法232条に基づき、銅製品には50%、医薬品には200%の追加関税を課すと息巻いている。医薬品に関しては1年超の猶予期間を設けるようだが、銅製品については7月末から8月頭に追加関税を課すとハワード・ラトニック商務長官が米CNBCとのインタビューで述べるなど、各国に対する圧力を強めている。

 高い球を投げるのは「ディール」の原則だが、とにかくトランプ政権が投げる球は高過ぎる。ゆえにすぐに煮詰まって、投げる球の高さを自ら低く修正せざるを得なくなる。いわゆるTACO(Trump Always Chickens Out)だが、このTACOを織り込んでいるためか、今までのところ、米国の株式市場や為替市場は大きな混乱を免れている。

 もっとも、株式市場や為替市場が落ち着いていることが、再びトランプ政権を高圧的な態度にさせている点も見逃せない。4月頭に追加関税の概要を発表した際、米国は通貨安・債券安・株安のトリプル安に陥り、追加関税の上乗せ部分の実施を延期せざるを得なくなった。今回はトリプル安がまだ生じていないため、トランプ政権は強気な姿勢をとっているのだろう。

 とはいえ、スコット・ベッセント財務長官と米財務省は、ドナルド・トランプ大統領やラトニック商務長官らと別の視点から関税協議に依然として神経を尖らせていると考えられる。それは、交渉が暗礁に乗り上げた場合に海外勢が米国債を大量に売却することに対する危機感だ。この問題こそ、米経済の文字通りの「アキレス腱」であるためだ。