建築コストの引き下げにつながる“切り札”
これはホテルも変わらない。東京都心部やインバウンドに人気の観光地では、世界の富裕層が泊まるような超高級ホテルが不足している。そのため、1泊数十万円を超えるような超高級ホテルに対する需要は底堅い。
ただ、コロナ禍で明らかになったように、ホテル事業はひとたびパンデミックが起きれば一気に需要がしぼんでしまうボラティリティの高いもの。ホテルは再開発プロジェクトにおける一つの収益源で、立地によるところも大きいが、それだけに依存するのはリスクが高い。
そうなると残るはマンションだが、いろいろと報道されているように、首都圏のマンション価格は一般的な購入者がなかなか買えないレベルまで上昇している。
とりわけ港区のような超一等地の価格高騰は激しい。麻布台ヒルズレジデンスのある住戸は坪4000万円ほどで販売されたが、現在は坪6000万円に達している。200坪の住戸であれば120億円だ。これは、米ニューヨーク・マンハッタンの坪単価とほぼ同じ水準だ。当然、このレベルの価格に手を出せる消費者(投資家)は限られるだろう。
実は、日本の不動産については私はまだポジティブに見ている。確かに、都心部や一部の地方の不動産価格は上昇しているが、一方で治安がよく、住みやすい日本に拠点を置きたいと考える外国人も多い。こちらも立地や物件によるが、そうした外国人は資産を円に移し、円で不動産に投資しており、不動産に対する需要は強い。
いずれにせよ、局地的ではあるが、マンション価格も天井に近づいており、今以上の坪単価が取れるかと言われれば、再開発の事業者も二の足を踏むのではないか。
こうして考えると、再開発プロジェクトの遅延や中止、計画の見直しなどは今後も相次ぐと思われる。ホームセンターや流通店舗も同様で、倍近くの建築費を出しての新たな出店や建て替えは難しくなっている。ましてや、そもそも収益性の低い病院の建て替えなど、国や自治体の補助がなければ不可能だろう。
それでは、この状況を放置するしかないのかという話だが、やはり建築コストを引き下げる努力をしていく必要がある。とりわけ、病院や学校など公共性が高い建物についてはさまざまな形でコストを引き下げていくことが不可欠だ。
その方策として私が従前から話しているのはPPP(Public Private Partnership:官民連携)の活用だ。
PPPにはさまざまな方式があるが、基本的な考え方は官民の資金で施設をつくり、所有権を公共に移した上で、施設の運営権を民間に一定期間売却し、運営や維持管理を委ねるというもの。施設の建設とその後の運営に民間の資金とノウハウを投入し、施設の整備と運営のコストを適正化するというのがPPPの狙いだ。
施設の整備に民間の資金を投入するという面ではPFIなどと本質的に同じだが、決定的に違うと思っているのは、施設を建設・整備した後の「経営」を民間に委ねるという点だ。