「遺族年金が減る女性は“自分ごと”と捉えて」
筆者の取材先でもある50代の女性は、12年前に夫に先立たれたが、当時の本人の年収が1000万円近くあったため、遺族厚生年金は支給されなかった。
共働きで同程度の収入を得ていたこともあり、海外旅行や共通の趣味だったゴルフやスキーを楽しむなどそれなりに散財していた。民間保険への加入も医療保障重視で死亡保障は「葬式代程度」。夫の勤務先から死亡退職金は出たが、懐事情は大きく変化したという。
「『自分の稼ぎで何とかなるだろう』と思われるかもしれませんが、世帯収入がいきなり半分になるショックは大きいですよ。夫がいなくなったからといって固定資産税や光熱費が減るわけではありません。住宅ローンは夫婦半々で組んでいたので、夫の分は団体信用生命保険で相殺されましたが、私の分の支払いは残りました」
コロナ禍には勤務先の業績が悪化して収入も減少、自身の老後について考える余裕ができたのはつい最近のことだという。「去年からNISA(少額投資非課税制度)口座で積み立てを始めましたが、今から老後資金2000万円を貯めるなんて絶対に無理です」と苦笑する。
だからこそ、「法案が通り、自分と同じような境遇の女性に5年間、遺族厚生年金が支給されるのは良いことだと思う」と話す。
とはいえ、改正の影響を大きく受ける子供のいない2028年度末時点で30代の女性の場合は、速やかな保障やライフプランの見直しが必要になる。すぐにではなくとも、人によっては将来的に前述した2000万円の大幅カットも起こり得るからだ。
女性はこう助言する。
「私自身、夫が若くして亡くなるとは思っていなかったし、遺族年金の制度を理解せず十分な対策も取っていなかった。今回の改正を機に、遺族保障が増える男性はともかく、減る女性は遺族年金を“自分ごと”と捉えて、しっかりリスクヘッジをしてほしいと思います」