産業政策と製造業の成功の因果関係に疑問符

 一方で、中国製造2025と中国製造業の成功との間に直接的な関係があるかどうかを疑問視する人もいる。

 米カーネギー・メロン大学の経済学者リー・ブランステッター氏と中国・上海科技大学の酈光偉氏は、「中国製造2025」という言葉を探して2015~18年の中国上場企業の決算報告を調べ上げた。

 対米関係にとって中国製造が政治的に微妙な問題になった後、中国政府は2018年頃に公にこの計画に言及するのをやめた。

 両氏は非営利研究機関「全米経済研究所(NBER)」向けのワーキングペーパーで、計画と関係した補助金を開示した企業は数少なかったものの、実際に開示した企業では「生産性の向上や研究開発費、特許出願、収益性の増加を示す統計学的な証拠はほとんどなかった」と記した。

 ランド研究所のディピッポ氏も、中国でのデータ不足のせいで時折、国の産業政策の効果の度合いを判断するのが難しくなると考えている。

「計画が何かは分かっており、政策支援のインプットが何かも多少分かっており、アウトプットが目に見えるが、その2つの間の因果関係が実はよく分からないブラックボックスが存在するみたいな感じだ」

供給サイドへの資源投入にマクロ経済的な副作用

 中国人の学者のなかには、産業政策が中国の役に立ってきたと主張する人もいる。

 北京交通大学の李氏は「特定産業における技術的なリーダーシップは世界的な競争への中国の参加の基盤を成しており、世界的な発展トレンドと合致している。こうした分野では、我々は(産業政策について)現行路線を維持する」と語る。

 だが、産業政策を磨く必要があったと李氏は言う。

 例えば市場シェアの目標は産業に規模の拡大を促すうえで一定の役目を担ったが、こうした目標は過剰生産能力と資源の分配ミスにつながる可能性がある。

 将来は、中国は単なる規模の拡大だけではなく産業チェーン全体の付加価値向上に重点を置き、「長期的な競争力を導きながら闇雲な拡大を避ける」ために研究開発や特許の質、その他の指標に焦点を当てるべきだと同氏は主張する。

 アナリストによると、中国経済の供給サイドに資源をどんどんつぎ込むことには重要なマクロ経済的な副作用もあり、それが消費に対する投資への依存につながっている。

 中国の不動産バブルが崩壊すると、供給サイドの産業政策に置かれた重点の結果、中国は工場から出荷される膨大な量の製品を吸収するために外需に依存せざるを得なくなった。

「中国市場2030」戦略へのアップグレードが必要?

 米モルガン・スタンレーの中国チーフエコノミスト、ロビン・シン氏は「中国は『中国市場2030』戦略へアップグレードすべきだ」と主張している。

「それはつまり、中国はもっと深い社会保障改革を実現し、中国の膨大な予備的貯蓄を解き放ち、より持続可能な形で消費を押し上げられるように農家と出稼ぎ労働者のための社会的セーフティーネット(安全網)を構築することにより、消費者市場を拡大することに焦点を当てるべきだということだ」

 そうすれば、2024年に総額がほぼ1兆ドルに達した中国の貿易黒字をめぐる米国、欧州、途上国との貿易関係の緊張を軽減することにも役立つはずだ。

「そうすることにより、自国企業のため、そしてグローバル企業のために中国は恐らく格段に大きく、強く、より回復力が強い国内市場を提供することができる」とシン氏は訴える。

 ロジウム・グループのブルノワ氏は、中国の製造業は今後もダイナミックであり続け、人工知能(AI)から追い風を受けるかもしれないが、過去10年間の産業政策からの前代未聞の支援増加は次の10年間に再現するのが難しいと指摘する。

 高水準の債務、財政赤字、赤字企業の数の多さは中国の財政に大きな負担をかけてきた。

「中国政府は短期的な利益のために経済成長と生産性、そして恐らく長期的なイノベーションを犠牲にした」とブルノワ氏は付け加えた。