2017年11月、中国を訪問したトランプ大統領を出迎えた習近平主席(写真:AP/アフロ)

 中国がこのところ、新たな「外交手段」に出ている。それは、「パロディ映像」の流布だ。

 これまでの中国なら、当局が外交問題で何かアピールしたい場合、新華社、人民日報(傘下の環球時報を含む)、CCTV(中国中央広播電視総台)という「3大メディア」が中心となって、社論を展開していた。もしくは、平日の午後3時から開いている外交部定例会見で、報道官がまくし立てていた。

 ところが、いまの中国の若者は、新華社、人民日報、CCTVのどれも見ない。ましてや外交部の定例会見など、存在自体を知らない若者が大半だ。

中国外交部報道局長の毛寧氏(写真:AP/アフロ)

 それで中国当局は、紆余曲折の末に、「言いたいこと」を込めた「パロディ映像」をSNSで拡散させるという新手法を始めたのだ。

あきらかにトランプ大統領へのあてこすり

 4月に、この手法で大成功を収めたのが、3分18秒のSF短編動画『塔・里・夫』だった。新華社通信が莫大な資金を投入し、豪華な未来型研究所のセットをこしらえて作った映像は、ハリウッドのSF映画そのものだ。セリフも全編英語で、英語と中国語の字幕がついている。

「塔里夫」は、女性博士のマローニが開発した最新鋭の人型ロボットの名前だ。「タリフ」と読み、英文字に直すと「tariff」。

 そう、ドナルド・トランプ米大統領が「一番好きな言葉」と自負する「関税」のことだ。この短編映画は、「トランプ関税」を強烈に皮肉ったストーリーなのである。動画はこちらで見ることができる

<近未来のアメリカ最先端の研究所の一室。「システム開始、電源レベル正常、記憶マトリックスをネットへ、行動プロトコール可動、国際貿易システムのデータ注入……」

 女性博士と人型ロボットの対話が始まった。

「ハロー、私はあなたを創造したマローリ博士よ、分かる?」

「分かるとも、マローリ博士」