遊女が抜け出せるのは「年季明け」か「身請け」

 そして、今回の放送では、瀬川(花の井)がいざ鳥山検校(とりやま けんぎょう)に身請けされると聞くと、蔦重は自身の気持ちに気づくことになった。

「身請け」とは、遊女の負債や身の代金を支払って、身柄を引き取ることをいう。鳥山検校は1400両(現在の紙幣価値で1億4000万円相当)の額を提示したというから、とんでもない大盤振る舞いである。

 到底、蔦重に太刀打ちできそうにもないが、瀬川に「俺がお前を幸せにしてえの! だから行かねえでくれ、頼む」と猛烈にアプローチした。

『べらぼう』で蔦屋重三郎役を熱演する横浜流星さん(右端)と花の井(5代目瀬川)役の小芝風花さん『べらぼう』で蔦屋重三郎役を熱演する横浜流星さん(右端)と花の井(5代目瀬川)役の小芝風花さん(写真:共同通信社)

 前回放送では、平賀源内に「女郎には死んでも手出しちゃなんねえって叩き込まれますし。誰かをてめえのもんにするとか、考えたこたねえっすね」と語っていたことを思うと、蔦重にとっては初めて抱いた恋心であり、自分でも制御できなかったのだろう。こんな提案をしている。

「年季明けには請け出す、必ず」

 借金の状況によって例外はあったが、原則的には吉原の遊女は「年季10年、27歳まで」と決められていた。鳥山検校のように財力で身請けできない蔦重は「年季明けまで待ってほしい」と、瀬川に伝えたのである。

 しかし、史実において瀬川は鳥山検校に身請けされている。ドラマのストーリー上は、蔦重に諦めさせる必要がある。そこで瀬川を抱える女郎屋「松葉屋」の松葉屋半左衛門といねが動く。2人としては、何としても瀬川の身請け話を決めて、大金を手にしたいと考えた。

 半左衛門は昼過ぎに蔦重を呼び出すと、あえて、瀬川が客を取らされている最中にふすまをあけて、蔦重に見せつけたのである。そして蔦重にこう言い放った。

「どれだけ飾り立って、これが瀬川の務めよ。年に2日の休みを除いて、ほぼ毎日がこれだ。この先、どう考えってか知らねえけど、おまえさんはこれを、年季明けまで瀬川にずっとやらせるのかい」

 頭で理解していることと、実際に目の当たりにするのとでは、わけが違う。自分が心からほれて大切に思う相手ならば、こんな状況からは一刻も早く解放してやりたいと思うのが、当然だろう。

 今回の大河ドラマの評判として、「家族で見られない」「なぜあえてこのテーマにしたのか」という声もよく耳にする。制作側としては、そういった反応も想定内なのだろう。物議を醸しても、遊郭・吉原であった悲喜こもごもを描き切る――。初回に次いで、今回もそんな制作側の覚悟が伝わる放送となった。

 瀬川の運命とともに、吉原で働く人々がどうなっていくのか。引き続き見守っていきたい。