キリスト教民主同盟(CDU)内で高まる米国への不信感

 まず、英国の中央銀行であるイングランド銀行にあった930トンをドイツ国内に移動。2013年には、ニューヨーク連銀に預けてある金のうち300トンとフランス銀行(中央銀行)にあった374トンの金すべてを本国に移すという大掛かりな移動作戦を、ドイツの中央銀行であるドイツ連邦銀行(通称ブンデスバンク)が発表した。

 ドイツ連銀の発表で、第2弾の移送作戦は当初予定よりも早い2017年に完了した。移送後の保管割合はドイツ連銀金庫が50.6%、米国のニューヨーク連邦準備銀行金庫が36.6%、イングランド銀行金庫が12.8%、フランス銀行(パリ)での保管はゼロとなった。

 国内に移送した金地金はドイツ連銀の担当者が徹底的に監査し、偽物でないことはもちろん、純度、重量についても「不正は発見されなかった」としている。

 国内での金保管比率は24年12月末でも51%とほとんど変化していない。ニューヨーク連銀に1236.2トン、イングランド銀行には405.3トンの金を預けてある。

 独ビルト紙によれば、キリスト教民主同盟(CDU)内で米国への不信感が高まり、ニューヨーク連銀にある金の本国への移動が議論されている。CDUは次期ドイツ首相への就任が確実視されているメルツ氏が党首だ。国際情勢が変化すれば金の保管場所も変えなければならないというドイツの考えは一貫している。

半減したニューコーク連銀の金保管量

 ニューヨーク連銀による金の保管は連邦準備制度による金融サービスの一つであり、第2次世界大戦中から戦後にかけて「多くの国が金を安全な場所に保管したいと運んできた」(同連銀)。最も保管量が増えたのはニクソン・ショック後の1973年で、1万2000トンを超す金が集まった。世界最大の保管量は外国からの「信頼の証し」だった。

 ところが、24年時点で保管されているのは約50万7000本の金地金、量にして6331トンと半減している。さらにドイツがすべての金を引き揚げれば保管量は4100トン以下に落ち込む。

 米国の信頼失墜はWGCが2019年から毎年、世界の中央銀行を対象に実施する調査でも明らかだ。最新の24年調査で最も多くの中銀が保管場所として挙げたのはイングランド銀行で、回答のあった58の中央銀行のうち、55%を占めた(複数回答)。ニューヨーク連銀を挙げたのは12%と少数派にすぎない。

 イングランド銀行の強みは、現物取引の中心的な存在であるロンドン市場にあることだ。同行は「各国の中央銀行にロンドン金市場の流動性へのアクセスを提供し、金融の安定を支援している」という。

 しかし、そのイングランド銀行の保管量も減少傾向にある。