初任給の大幅アップには副作用も

■図表2 ありがちな初任給調整

出所:筆者作成

  新卒採用対策だけを考えて初任給を引き上げる企業は、いくつかの副作用を覚悟する必要がありそうだ。若手の先輩社員たちからすると、逆転しないとはいえ給与差が縮まるので、それまでの自分たちの経験の価値が下がったと感じても不思議ではない。給与調整がなかった先輩社員たちは、そもそも蚊帳の外だ。

 そして、高い初任給で入社した新卒社員たちも、その後の昇給はどうかというと、初任給調整によってこれまでよりも昇給額が小さくなっているので、2年目、3年目になっても給与があまり上がらない。

 要するに、初任給の引き上げは、どの層にとっても新たな不満のタネになりかねない。初任給を上げるのであれば、単なる初任給調整ではなく、併せて既存社員全体の給与水準を見直す必要がある。

 キャリア採用が当たり前になっている昨今だが、相変わらず大企業の「新卒採用至上主義」は揺るがないように見える。もちろん、学生も初任給だけで企業選びをするほど単純ではないだろう。初任給の引き上げが、即、企業の新卒採用の優位性を築く決定打になるわけではなく、その初任給で入社した後どうなるのかが問われるはずだ。

 次に、春の「賃上げ」と初任給アップとの関係を見てみよう。

>>(後編を読む)春闘大詰め!「賃上げ5%」でも喜べない、氷河期世代が割を食うカラクリ…労組弱体化で配分が若手に偏る厳しい現実

藤井 薫(ふじい・かおる)パーソル総合研究所 上席主任研究員 電機メーカーの人事部・経営企画部を経て、総合コンサルティングファームにて20年にわたり人事制度改革を中心としたコンサルティングに従事。その後、タレントマネジメントシステム開発ベンダーに転じ、取締役としてタレントマネジメントシステム事業を統括するとともに傘下のコンサルティング会社の代表を務める。2017年8月パーソル総合研究所に入社、タレントマネジメント事業本部を経て2020年4月より現職。著書に『ジョブ型人事の道しるべ』(中央公論新社)、『人事ガチャの秘密』(中央公論新社)