複葉機タイプの小型輸送機を200機も保有する狙い
空軍の花形である作戦機(爆撃機、戦闘機など)は550機を保有するなど世界でも上位の多さだが、その顔ぶれは半世紀以上経過したレトロ機が大半である。
まず爆撃機として、IL-28をいまだに80機も温存させている点に驚く。現在「爆撃機」を現役に置く国は米露中の3カ国くらいで、いずれも核ミサイルや巡航ミサイル、長距離対艦ミサイルなどを発射するためのプラットフォーム(発射母体)として運用し、機体も大型だ。
一方のIL-28は、第2次大戦直後の1940年代後半に旧ソ連が開発した軽爆撃機で、爆弾搭載量は3トン。ウクライナへの供与で注目の米製F-16戦闘機は同約7.7トンなので、その半分以下に過ぎない。おまけに爆撃は第2次大戦時と同様に、爆撃手の腕前が頼りの自由落下爆撃で、命中率は極めて低いため、現代戦に投入するには少々無理がある。
戦闘機も全て旧ソ連/ロシア製か、それを中国がライセンス生産したもので、同様に大半が旧式である。朝鮮戦争(1950~1953年)で活躍したMiG-15を筆頭に、MiG-17/-19/-21/-23と、初飛行が半世紀以上前のミグ機が多い。それでも何とか現代戦で使えそうなのは、ウクライナ戦争でも活躍するMiG-29の18機くらいだろう。
対する韓国軍は、ステルス戦闘機F-35を始め、 F-15やF-16など西側の精鋭機で固めており、「北朝鮮空軍がまともに空中戦を挑んでも、『100対0』のスコアで完敗する可能性が極めて高い」と、ミリタリー雑誌記者は強調する。
だが、「主翼が2枚ある複葉機タイプの小型輸送機An-2コルトを200機も有する点が不気味で、おそらく特殊作戦に使うのだろう」と、前出の国際ジャーナリストは指摘する。同機は第2次大戦直後に旧ソ連が開発した農薬散布向けの小型機で、操縦が簡単で安価。しかも頑丈で短い滑走路での離着陸が可能な点が特徴である。
北朝鮮はこのコスパのよさを重視し、開戦時には特殊部隊を十数名乗せ、レーダーに捕捉されないように、できるだけ低空で韓国領内に侵入。兵員を落下傘降下させるのが目的と見られる。機体が小ぶりなのに加え、一説には胴体や翼部分の大半が木製のため、レーダーに映りにくく特殊作戦には好都合、とも言われている。
核・ミサイル開発では、国連決議を完全に無視して試験を繰り返す北朝鮮だが、いざ通常戦力となると、韓国には全く歯が立たないという事実は意外と知られていない。
だがウクライナ戦争で明らかになったように、ドローンの目覚ましい進化が通常戦闘の常識を次々に塗り替えているのも事実。北朝鮮は世界最大のドローン製造国である中国と親しい間柄にあるだけに、韓国軍や在韓米軍に対する劣勢を挽回するため、中国製ドローンを軍用として大量使用することも十分に考えられる。
これまで、高度な対空ミサイル・システムの普及が遅れ、代わりに機関銃や対空砲、高射砲など、第2次大戦時とあまり変わらないアイテムを大量に配備する北朝鮮に対し、西側は一笑に付してきた。
だが、ウクライナの戦場では、こうした旧来型の兵器がドローン撃墜にとってコスパ的に極めて優れていることが証明され、再評価され始めている。それだけに北朝鮮の通常戦力を「老朽化が著しい」と完全に無視することもできない情勢と言えるだろう。
【深川孝行(ふかがわ・たかゆき)】
昭和37(1962)年9月生まれ、東京下町生まれ、下町育ち。法政大学文学部地理学科卒業後、防衛関連雑誌編集記者を経て、ビジネス雑誌記者(運輸・物流、電機・通信、テーマパーク、エネルギー業界を担当)。副編集長を経験した後、防衛関連雑誌編集長、経済雑誌編集長などを歴任した後、フリーに。現在複数のWebマガジンで国際情勢、安全保障、軍事、エネルギー、物流関連の記事を執筆するほか、ミリタリー誌「丸」(潮書房光人新社)でも連載。2000年に日本大学生産工学部で国際法の非常勤講師。著書に『20世紀の戦争』(朝日ソノラマ/共著)、『データベース戦争の研究Ⅰ/Ⅱ』『湾岸戦争』(以上潮書房光人新社/共著)、『自衛隊のことがマンガで3時間でわかる本』(明日香出版)などがある。