(3)「第7次エネルギー基本計画」の概要
読売新聞2024年12月12日付けの報道によると、政府が3年ぶりに改定する「第7次エネルギー基本計画」では次のように方針の見直しがあった。
人工知能(AI)の普及などに伴うデータセンターや半導体工場の増加を見込み、電力需要を最大2割増えると想定し、東日本大震災以降、原子力発電について「可能な限り依存度を低減する」としていた方針を「最大限活用する」に改定する。
原発を最大限活用する方針を打ち出すのは、再生エネの拡大だけでは安定供給と発電コストの低減は難しく、産業競争力の低下を招くからだ。
原発については再稼働を加速させるほか、次世代革新炉への建て替え方針も盛り込む。
廃炉を決めた場合、電力会社が保有する別の原発敷地内での建て替えを認める。現在は廃炉を決めた原発の敷地内に限っている。
再生エネは、次世代太陽電池などを拡大し、引き続き主力電源とする。
火力は、二酸化炭素(CO2)の出ない水素やアンモニアの活用などで脱炭素化を進める。
政府は2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロとする目標を掲げており、2040年度の排出量は2013年度比で73%削減したい考えである。
(4)筆者コメント
今、世界ではIT大手が一般的な電力確保でなく、原発電力の確保に動いている。
その事例を次に述べる(出典:SBC証券「データセンターの需要拡大で見直し機運の原子力発電」2024年12月11日)。
▲コンステレーション・エナジーが、ペンシルベニア州にあるスリーマイルアイランド原子力発電所1号炉(2019年9月に運転を停止していた。1979年の事故で廃炉となったのは2号炉)を再稼働させ、マイクロソフトのデータセンターに電力を供給する契約を締結した(2024年9月20日)。
▲グーグルは、次世代型の原子炉とされる小型モジュール炉(SMR:Small Modular Reactor)の開発を手がける米企業「カイロス・パワー」から電力を調達する契約を結んだと発表した(2024年10月14日)。
▲アマゾンは米東部バージニア州で小型モジュール炉(SMR)の開発を支援するため、米エネルギー大手ドミニオン・エナジーと協力する。
総投資額は5億ドル超。この一環として、原子炉と燃料技術の開発を手がける米スタートアップのXエナジーに出資したことも明らかにした(2024年10月29日)。
このように、AI開発を推進するIT企業は、原子力発電に対する関心を高めている。
ところで、なぜ生成AIの発展・普及が原発回帰をもたらすのであろうか。
生成AIを動かすには大量かつ安定した電力の供給が必要となる。太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、天候によって発電量が大きく変動し、安定性に欠けるため、IT向けの電源としては適していない。
また、IT企業に限らずグローバル企業では気候変動対策に取り組むことが当たり前になっている。
気候変動対策に逆行する石油や石炭、天然ガスなどの化石電源の使用を回避したいと考えている。
原子力発電はこの2つの要求を満たし得る解決策となっている。そして、今、世界でも日本でも原発回帰が起きているのである。