施設にカネを払っても、ろくな介護を受けられない
高齢化、そして介護は誰もが直面する問題であり、「明日は我が身」だ。だが、このことを最も痛感しているのは一人っ子世代だろう。
現在、中国の高齢者の多くは一人っ子の親だ。1組の夫婦は4人の親と1人の子供という家族構造の下で、介護と子育て、仕事の板挟みとなっている。
介護人材の不足も頭の痛い問題だ。
北京師範大学が2019年に発表した調査結果によれば、低賃金や仕事の厳しさなどのせいで若者の間で介護従事者に対する人気は極めて低い。
4000万人強の要介護者に対し、中国の介護職員は32万人強に過ぎない。中国政府の基準(要介護者と介護職員の配分を4対1にする)をまったく満たしていない。これではなけなしのカネを払って施設に入ったとしても、ろくな介護は受けられないだろう。
経済の高度成長が終焉しつつある中、高齢化がもたらす社会への重圧はこれまで以上に強まることは間違いない。
豊かになる前に高齢化への準備をしてこなかったにもかかわらず、中国政府はあまりに消極的であり、無責任だと思えてならない。
中国社会が介護地獄に陥るのは時間の問題なのではないだろうか。
藤 和彦(ふじ・かずひこ)経済産業研究所コンサルティング・フェロー
1960年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒。通商産業省(現・経済産業省)入省後、エネルギー・通商・中小企業振興政策など各分野に携わる。2003年に内閣官房に出向(エコノミック・インテリジェンス担当)。2016年から現職。著書に『日露エネルギー同盟』『シェール革命の正体 ロシアの天然ガスが日本を救う』ほか多数。